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取材ノート 2663号(2016/09/12)
緑色の風景

編集部 野中千尋
 「あたりは一面緑の海で、風が吹く度に生え揃った緑色の稲がゆらっと大きく波を打って傾きます。…葉ずれの音と、青くさい草の匂いがして、その情景の中にたたずんでいると、重たく澱んだ心の中にもスーッと一筋、爽やかな空気が通り抜けていくような気がしました」

 2012年の本紙に掲載された、作家・旭爪(ひのつめ)あかねさんの記事を読んでいて見つけた印象的な一文です。

 激しい対人緊張が原因で約10年間引きこもり状態になった旭爪さん。その心を癒やしたのは、時たま散歩に出かけたときに見る水田地帯の穏やかな夏の景色だったそうです。

 サワサワと静かに揺れる緑の田んぼを眺めているうち、旭爪さんは「この風景の美しさを言葉にしたい」という思いに駆られます。そして、のちに映画化されるほどの話題作となった著書『稲の旋律』(新日本出版社)の中に、その思い出の風景を綴ったのでした。

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 皆さんにも、ボーッと眺めているだけで心が休まり、元気をもらえたり、懐かしさで胸がいっぱいになるような思い出の景色があるでしょうか?

 宮崎市が今年度から主催している「みやざき景観100選フォトコンテスト」には、市内の魅力的な場所や自分だけが知っている風景など、「日常」を違う角度から撮ったさまざまな写真が数多く寄せられています。

 ちなみに、初回のグランプリに輝いた写真のタイトルは『no rain no rainbows(雨降らずして虹は出ない)』。梅雨の晴れ間に撮られたものです。

 宮崎の原風景といえそうな里山の緑の中を古びた電車が走り、その上に広がる雨上がりの真っ青な空にきれいな虹がかかっているという写真です。

 まだ濡れている野山の緑色や晴れた空の青が本当に鮮やかで、写真から風に乗って夏の匂いが漂ってきそうでした。

 見ているだけでなんとなく懐かしい気持ちになり、「きっとこの写真を撮った人はこの風景が大好きなんだろうな」と思いました。

 大好きな風景といえば、私にもそんな場所があります。地元・宮崎県新富町にある「水沼神社」の境内から見える蓮池です。

 夏になると、私より背の高い蓮の葉と白い花が広い池を遠くまで埋め尽くし、池を渡ってきた風が木々に囲まれた静かな境内を通っていくのです。

 その風を感じながら何も考えずに過ごしていると、「ああ幸せ…」という気分になって何時間でもいられる気がします。

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 自然の景色もそうですが、町並みや家の様子なども、思い出すたびにそこへ帰ってきたような気がしますよね。たとえ今はもう存在しない場所でも、その記憶の中の風景はその人にとっての確かな「ふるさと」になるのかなと思いました。
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