ホーム記事一覧取材ノート

取材ノート 2706号(2017/08/07)
巨匠を育てたもの

編集部 野中千尋
 以前、英国オートクチュール界のトップデザイナー・鳥丸軍雪(とりまる・ぐんゆき)さんのお話を取材する機会がありました。

 とても80歳には見えない華やかな雰囲気の方で、講演後、投げキッスと共に降壇する姿に会場内の女性から歓声が上がっていました。

◎          ◎


 1986年に来日したダイアナ妃の青いイブニングドレスをはじめ、エリザベス皇太后の百歳記念パーティーの衣装やスウェーデン王国・シルヴィア王妃のノーベル賞授賞式でのドレス、黒柳徹子さんの舞台衣装など、国内外にわたって多くの著名人の衣装デザインを手掛けている鳥丸さん。

 流れるようにゆったりしたラインと独創的な布のカットから「ドレープの魔術師」「絹の彫刻家」と呼ばれ、世界中にファンが多いのだとか。

 王室も認めるほどの感性の原点になったのは、故郷である宮崎県小林市の自然と、それを教えてくれたご両親でした。講演の中で、お母さんに関するこんなエピソードが紹介されていました。

◎          ◎


 鳥丸さんが子どもの頃、夜中に家の外にあるトイレに行きたくなったものの、暗闇が怖くて我慢していたことがよくあったそうです。

 すると、それを察したお母さんは「お手洗に行きたいの?」とも「ついていってあげるよ」とも言わず、こう言うのです。「あぁ、星空がきれいだろうな」。そうして鳥丸さんの手を引いて外に出てくれたといいます。

 また、鳥丸さんが22歳で修業のため渡英した時のこと。まだ電話もなかった時代に、お母さんからこんな手紙が届きました。

 「◯月◯日は満月です。私、10時になったらお月さまを見るから、一緒に見ようよ。離れていても同じ月を見て心を通わせられたら…」と。とても詩的でロマンチックなお母さんだったようです。

 結婚するまでとても苦労をされており、学校に行けず字もほとんど読めなかったそうですが、そのみずみずしい感性は鳥丸さんにしっかりと受け継がれていたのだと思います。

 「軍ちゃん、世の中で大事なことにはお金が掛からないのよ。神様はあなたが楽しめるようにいろんなものをタダで置いてくれているんだよ」

 そうお母さんに言われて眺めた高千穂峰や河口のラインに魅せられ、鳥丸さんの仕立てる服にはその自然の美しさから着想を得た部分が多いといいます。

 世界中で通称「ユキ」と呼ばれている鳥丸さん。これはお母さんの名前でもあるそうです。

◎          ◎


 そんな鳥丸さんの連載は9月中旬、宮崎市での個展開催に合わせてスタートする予定です。どうぞお楽しみに。
カレンダー
<前月  2017年08月  翌月>
 
 
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
 
 
ブログ
  • 水谷もりひとブログ
  • くるみノート
  • とね書
  • スタッフブログ