ホーム記事一覧転載・過去・未来

転載・過去・未来 2669号(2016/10/24)
その4 ことばの形見 ~1年生の1学期、天使がいた教室~

児童文学者 宮川ひろ
 『天使のいる教室』は、東京・板橋区にある大山小学校の佐藤静子先生の実践から、私なりに膨らませて本にしたものです。

 佐藤先生は、小児がんを患ったあきこちゃんという女の子のいる1年生のクラスの担任になりました。

 入学式を前に、お父さんが学校に来られて、「医者から『あと半年のいのちです』と言われての退院です」と言われました。

 本当は自由に遊ばせてもいいのですが、「ランドセルを背負わせてあげたい」という親心もあったのでしょう。

 そして最後にこうおっしゃいました。「先生、あきこに『学校は楽しかった』という思い出を作ってあげてください」と。

 入学式の後の学級開きでは、ご両親の了解をもらって、児童と親御さん全員の前であきこちゃんの手術の傷跡を見せ、「こんなに頑張ったのよ」と言いました。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 佐藤先生はどんなクラスにしようか悩んだ末、「言葉いっぱい、絵本いっぱいのクラスにしよう」と決めました。「子どもが何かしでかしたら、すぐ説教するのではなく、黙って絵本を読んであげよう。そしたら私が説教するより心に沁みるのではないか」と思ったのです。

 絵本が一番よく見える席をあきこちゃんに譲ってあげました。みんなの喜びがあきこちゃんに伝わり、あきこちゃんの喜びがみんなに伝わりました。その時間、あきこちゃんは体の痛みを感じなかったといいます。

 あきこちゃんは7月に再入院しました。病状が進むにつれ、視力がなくなり、言葉がなくなっていきました。

 12月9日、佐藤先生がお見舞いに行くと、あきこちゃんから先生とクラスのみんなに宛てたクリスマスカードを受け取りました。お母さんに手を添えてもらい、手探りで一人ひとり23人のお友だちに「クリスマスパーティをやりたい。そのときはきてね」と書いたものでした。

 先生はそれを翌日の朝、教室に持っていき、「あきこちゃんからのカードだよ」と言って、みんなに手渡しました。ちょうどその日の朝、あきこちゃんは天国に逝ってしまいました。

~~~~~~~~~~~~~~~~~
 

 その日の夕方、先生は1人、教室でしょんぼりしていました。ふと、あきこちゃんからもらったカードをまだ読んでいなかったことに気が付きました。先生に宛てたそのカードは白い紙に、白いクレヨンで書かれていて、色を塗らないと文字が浮かび上がってこないカードでした。

 「何て書いてあるのかしら」と思って青い絵の具を塗りました。すると文字が浮かび上がってきました。無い力を振り絞って書いてくれたのに、ユーモアたっぷりに「サトカン先生はきれいです。おまけに美人です。大好き」と書かれてあったそうです。

 これは先生にとって、あきこちゃんからもらった大きな「ことばの形見」になったことでしょう。

 1年生の1学期を一緒に過ごしただけなのに、なんと密度の濃いお付き合いだったのでしょうか。

 「私たちの中にあきこちゃんは生きている。だから誕生会をしよう」ということで、10月28日のあきこちゃんの誕生日に合わせて、10月の最後の土曜日か日曜日にあきこちゃんの誕生会を毎年しています。

 ご両親は集まってくるお友だちを見ながら、「生きていたらこんなに大きくなっているんだろうな」と考えるそうです。

 今はもうみんな中学生になっていますが、その誕生会は今も続いています。 

(1999年6月7日号より)


★このコーナーは過去25年のバックナンバーの中から選りすぐりの記事に加筆し、読み切りで転載しています。
カレンダー
<前月  2016年10月  翌月>
 
 
 
 
 
 
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
 
 
 
 
 
ブログ
  • 水谷もりひとブログ
  • くるみノート
  • とね書
  • スタッフブログ