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転載・過去・未来 2687号(2017/03/20)
その19 日本の心~私たちの足元に広がる素晴らしい文化~

長崎総合科学大学教授 ブライアン・バークガフニ
 私が初めて「日本の心」に触れたエピソードを紹介します。

 日本に来て最初の2年間は、愛媛県の田舎にある小さなお寺で、師匠と2人で生活していました。

 ある日の朝、私の父から手紙が届きました。師匠に「ご家族の方からですか?」と聞かれたので、私は「父からです」と答えました。

 その日の午後、庭の掃除をしていると師匠が激しく怒った様子でやってきて、いきなり私をゲンコツで殴りました。

 なぜ殴られたのか分からず戸惑っていると、師匠が「お父さんが心を込めて書いた手紙を、お前は畳の上に置きっ放しにしていたじゃないか! そんな薄情者は禅の修行をする資格はない。出ていけ!」と言ったのです。

 私は、「なんでそんなことで殴られなきゃいけないんだ。こんな寺、出ていってやる!」と意地になって、荷物を全部まとめて帰ろうと思いました。

 でも自分の部屋に戻ってみると、「いろんな方のお世話になりながらここまで来たのに、こんな形で夢を捨ててはいけない」と思い直し、また庭の掃除を始めました。

 しばらく考えているうちに、殴られた理由が少し分かってきました。

 「人の心がこもっている手紙を、歩いたり座ったりする畳の上に置いてはいけない」という感覚は、正直言って西洋人の私には全くありませんでした。

 でも、「心のこもったものは大切に机の上に置くべきなんだなぁ」ということに気付いたのです。

 いつの間にか日も暮れ、師匠はいつもの声で「ご苦労さん。仕事はそこまでにして夕食の準備にかかりなさい」と言いました。

 その後二度と手紙の話は出ませんでした。私はその時、初めて日本の心に触れた気がしました。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 私が感動した日本語は「おしゃれ」という言葉です。

 私はこの言葉をずっと「ファッション」と同じ意味だと思っていました。だから通訳や翻訳の仕事をする時に「おしゃれ」が出てくると必ず「ファッション」と訳していました。

 ところが、ある雑誌を見ていると「お洒落」と漢字で書いてあったんです。漢和辞典を開いてその意味を見た時、「なるほど」と思いました。

 簡単に言えば、「不純物をすべて洗い流す・洗い落とす」という意味だったのです。

 一方「ファッション」はラテン語の「作る」という動詞から来ています。

 ですから素材を飾ったり、格好をつけるという意味になるのですが、「お洒落」にはそういうわざとらしさはありませんでした。

 その時「なるほど、人間の美しさというのは人工的に作るものではない。中から光る、そういうものが人間本来の美しさなんだなぁ」と分かったのです。

 それは、「ファッション」が作り笑いみたいなものであるのに対して、「お洒落」は本当にお腹の底から面白くて「ワッハッハ」と愉快に笑う、そういう違いなんだろうなと納得しました。

 皆様も、「お洒落な心」を大切にして過ごしていただきたいと思います。

 松尾芭蕉がこんな一句を残しています。

 「よく見ればなずな花咲く垣根かな」

 この「よく見れば」が大事です。

 忙しさの中で、ふと立ち止まると足元に小さななずなの花が咲いている。そういう「よく見ること」こそがこれからの時代に不可欠なことだと思うのです。

 本当の意味で日本が国際社会に貢献するためには、私たちの足元に広がる素晴らしい日本文化をよく見て、それを大切にしてほしいと思います。

(2002年10月28日号より)


★このコーナーは過去26年のバックナンバーの中から選りすぐりの記事に加筆し、読み切りで転載しています。

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