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転載・過去・未来 2690号(2017/04/10)
その22 「待つ」教育を~校庭から町へ、そして世界へ飛び立つ~

東海大学教授(当時) 秋山仁
 夏にテントを自転車に乗せて北海道一周の旅をしている高校生のグループと出会いました。

 彼らと一晩語り明かしながら、「教育ってまさにこういうことだ」と感じたことがありました。

 彼らの中に「小学1年生まで自転車に乗れなかった」という男の子がいました。

 その苦手を克服するために、学校の先生が練習に付き合ってくれたそうです。先生に自転車の後ろを支えてもらいながら校庭を何周も何周も走りました。

 ついに先生は疲れて、手を放して座り込みました。でも彼は「先生が押さえているから大丈夫」と安心しながらそのままずっと自転車をこぎ続けました。

 そうして彼は自転車に乗れるようになり、「高校を卒業するにあたって自転車で北海道を一周する旅の計画を立てた」というのです。

 「両親に言ったらすごく心配していたけど、『友だちと綿密な計画を立てて安全には十分留意して行くから大丈夫だよ』と言って来ました」と話していました。

 教育の効果というのはこういうものだと思います。かつてできなかったことが、みんなの激励や協力や自らの努力によってできるようになる。そして、さらに広く大きな世界に飛び出していく。

 校庭から町に飛び出し、北海道一周に飛び出し、彼らはさらに「来年、アメリカ大陸を縦断するつもりです」と言っていました。

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 横浜ベイスターズで監督をしていた権藤博さんの話です。

 ある大リーグのコーチが、選手に「左方向に打てるようになったら俺のとこに来い。それまではおまえを指導しない」と言って帰ってしまったそうです。

 権藤さんはそれを見て「この人冷たいなぁ」と思い、そのコーチに「なぜあんなことを言ったんですか?」と尋ねました。すると彼はこう答えました。

 「教えるのは簡単だ。でも教えるとすぐ忘れちまうんだ。自分で創意工夫して一生懸命悩んで体得する、それが重要なんだよ」って。

 その選手は一生懸命、何日も何日も1人で練習して、やがて左方向に打てるようになりました。

 教育ってそういうものだと思います。因数分解でも方程式でも、教えるのは簡単です。でも、教えたものはすぐに忘れてしまいます。

 頭だけ、机上だけで「いのちを大切にしましょう」「人を傷つけないようにしましょう」と子どもたちにただ唱えさせてもダメです。子どもたち自身で「あっ、そうか!」と気付くこと、それが大事なのです。

 でも、これが難しいんですね。待ってあげなければいけないからです。「待つ」ということほど大変なことはありません。答えを教えるほうがよっぽど簡単です。

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 一言で言えば、私は「できない子どもにも教育の恩恵が向けられるべきである」と言いたいのです。

 今までの教育は、一部の優秀な子どもたちにはいい教育だったと思います。

 私は、中学・高校の時は劣等生でした。そういう私みたいな子どもからすると、今は「学校に行きたくない」「勉強が面白くない」と思ってしまいそうな教育です。

 子どもたちみんなが「努力するって大事なことなんだ」「自分もやればできるんだ」と思えるまで待ってあげる教育であってほしいし、「できない生徒を待ってあげる教育」であってほしいと思います。

(2002年6月24日号より)


★このコーナーは過去26年のバックナンバーの中から選りすぐりの記事に加筆し、読み切りで転載しています。

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