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みっともないことも認め合おう

2006年11月27日

 「あなたは今までに死にたいと思ったことがありますか?」

 自殺対策に取り組む宮崎の市民グループ「ヘルプラインいのち」が、このほど県民を対象に自殺に関する意識調査を実施した。 県内の事業で働く男女を対象にアンケート用紙を配布し、1569人から回答を得られた。ちょっと興味深い結果が出たので報告しておきたい。

 回答者のほとんどは20代から50代で、男性が918人、女性644人だった。(性別不明が7人)

 いくつかある質問項目のうち、「今までに死にたいと思ったことがありますか?」という問いに「ある」と回答したのは378人。全体の4人に1人に当たる24・3%だった。 男女比でいうと、男性は5人に1人(20・4%)で186人、女性は約3人に1人の191人(30・1%)だった。

 「生きづらさ」を感じているのは、男性より女性のほうが多いのに驚いた。というのは、実際の自殺者数は女性より男性のほうが多いので、てっきり生きづらさを感じているのも女性より男性のほうが圧倒的に多いと思っていたからだ。

 平成16年の統計によると、宮崎の自殺者数は男性275人、女性93人と男性は女性の3倍もいた。ちなみにこの数字は全国ワースト6位の高さである。

 全国の統計も同様な傾向にあり、女性はだいたい9000人前後で毎年推移しているのに対し、男性はその約3倍、年間約2万5000人もいる。その差は何なのか。

 つまり、男性以上に「死にたいと思ったことがある」女性たちは、何らかの方法で自殺を踏みとどまり生き抜いている、ということである。一体それは何なのか。

 死にたいと思ったことがある人に対して、「その時、どうやって乗り越えましたか?」と聞いた質問では、男女とも「家族以外の信頼できる人に相談した」が比較的多かった。

 ところが、家族以外の信頼できる人に相談して乗り越えた10代男性は20%、20代男性は26・4%、30代男性は15・4%、40代男性は 10・3%、50代男性は17・9%だったのに対して、10代女性は64・3%、20代女性は42・2%、30代女性は35%、40代女性は20%、50 代女性は24%、60代女性は40%。すべての年代で、男性の2倍から3倍にあたる女性たちは「誰かに相談して」乗り越えていた。

 さらに、死にたいと思ったことがある人に対して、「どういうところにSOSを出したいですか?」(複数回答)と聞いた質問で、女性が一番多く回答したのはやはり「家族以外の信頼できる人」(42%)で、次いで「家族」(27%)だった。

 一方、男性は「誰にも相談しないと思う」(46%)が一番多く、次いで「家族以外の信頼できる人」(31%)だった。

 なぜ、男たちは誰にも相談せずに自らの命を絶っていくのだろう。もちろん「誰にも相談しない」女性も少なくない(26%)。本当に死にたい人、もう死ぬしか道はないと思い込んでしまった人は相談なんかするはずはない。

 ただ、実際の自殺者の男女比があまりにもアンバランスなのは、「生きる力」ということでいえば、男性は女性に比べて何かが欠けているのではないかと思われる。

 たとえば、それは「言葉」かもしれない。男たちは、自分の力を自負する言葉、相手を攻撃する言葉、やっつける言葉、そういう力強い、前向きな言葉は持っているが、絶望の淵にたたずんでいる時、自分の弱さや自分のみっともなさ、自分の過ち、自分の情けなさを表現する言葉を持っていない。そういう時はただじっと耐え、一人で解決しようと踏ん張る。やがて、我慢も限界に達した時、逃げる。つまり、誰にもSOSを出すこともなく自死していく。

 逃げたら、その苦悩は残った者たちが引き受けなければならない。自死遺族の苦悩たるや、筆舌に尽くしがたいほど大きい。 今、マスコミは官製談合の話題で持ちきりだ。考えてみれば、人間って誰でもみっともないことをすることがある。恥ずべきこともする。それは人間としての弱さだろう。その時の気持ちを言葉でしっかり言えたらどんなに楽になれるだろうか。もちろん、その言葉を聞いた人はそれを受け止めてあげるのが望ましい。

 みっともないことも認め合う。そんな社会が自殺者を減らすと思う。