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日本人が失った大切な「食」

服部学園理事長・医学博士服部幸應氏
2006年11月13日号
食育のすすめ 日本人が失った大切な「食」
服部学園理事長・医学博士服部幸應

 今、日本人は世界一長生きです。特に女性は1985年から21年間、ずっと世界一位です。男性は、世界二位までいったんですけど、今、四位に落ちました。それでもすごいですよね。

 ただ問題があります。長生きは世界一なんですが、「介護されながら」という人が多いんですね。やっぱり「生涯現役」ということが大事で、そのために国もいろいろやってきました。

 その目玉となるのが、昨年できた「食育基本法」という法律です。食から健康を取り戻そうというわけです。

 というのは、今、年間100万人の人が亡くなっているんですが、そのうちの約64・8%が直接的・間接的に、食べ物が原因で亡くなっていることが分かっています。確かに日本は飽食の社会です。豊かになったのはいいのですが、逆に食べ過ぎや欠食で病気になる人が増えているんです。それで政策として「食育」が必要になったというわけです。 

 これは縦断的、横断的にやることが重要です。

 縦断的というのは赤ちゃんからお年寄りまで、それぞれの年齢に合った食育です。横断的というのは、家庭、学校、地域社会での食育です。

 たとえば学校給食。今21%くらいの食材を地場産物のものにしているんですが、これを平成22年までに30%までもっていこう、という計画です。

 生産者の協力も必要です。農林水産業の方々が安心、安全、健康なものを作ってくれないと、消費者に直接影響しますから。

 また、食品加工メーカーの協力も必要です。今いろんな食品が売られていますが、中には怪しいものも多いです。各種メーカーさんの食育に対しての理解と実行が欠かせません。

 それから教育現場。今、中央教育審議会や教育委員会にも食育への積極的な取り組みをお願いしていて、少なくとも中学校までには教科書の中に「食育」が入り、学習指導要領の中に組み込んで、そういう授業をやって欲しいと、お願いしてきました。

 それで、数年後から「食育」を授業の中に加えることになりました。これで日本もかなり変わるはずです。

 今、一番心配しているのは子どもの身体です。

 身体がつくられるのは0歳~20歳までです。20歳が骨密度のピークですから、ちゃんとした食生活を20歳までやっておかないと、太くて、重くて、密度のある骨をつくることができません。

 ところが今、バランス悪い食生活の子が多いでしょ。特に7歳から18歳までは骨が一番成長する時期なんです。この時期にバランスの悪い食生活をしていたらどうなります?

 こんな実験をしました。ラットを100匹ずつ、A、B、Cの3つのグループに分けて飼いました。

 Aのグループには玄米と野菜とお魚を与えました。 Bのグループには白米と野菜、お魚、お肉を与え、Cのグループには白いパン、マーガリン、野菜を少しとベーコンとソーセージ、お肉を与えました。

 2年7ヵ月育てました。人間の年齢で言うと60歳まで育てたことになります。

 まずA。100匹みんな元気。しかも毛のつやがいい。

 Cは、48匹が死亡しました。解剖したらみんな生活習慣病でした。残りの52匹のうち3分の1にも生活習慣病の症状が出てまして、いつ死んでもおかしくない状態でした。あと3分の1がその予備軍で、残りの3分の1がアレルギー疾患。毛が半分ぐらい抜けちゃって、いつもかいているんですよ。

 さぁ、Bです。Bの食生活って、我々の食生活に似てません?

 100匹のうち18匹が死亡。残りの82匹のうち、3分の1が生活習慣病でした。その予備軍が3分の1。残り3分の1は健康でした。

 そして、Aのグループの平均体重を「1」とすると、Bが「1・3」、Cが「2・3」でした。Cは体重が2倍以上になっていました。この実験結果を一つの目安にして欲しいと思います。 
 
要は食生活が重要なんです。特にきちんとした朝食を食べないといけない。

 なぜかと言えば、夜、食べた物が作ったエネルギーが、グリコーゲンという形で肝臓と筋肉に溜め込まれます。約60㌘のエネルギーを溜め込むことができます。

 で、寝ている間に1時間に約5㌘消費します。8時間後には40㌘を消費し、朝には20㌘しか残りません。 なのに朝食を摂らずに出掛けたとします。通学もしくは通勤で10㌘のエネルギーを使います。

 さぁ、職場や学校に着いて仕事、もしくは勉強開始。エネルギーは10㌘しか残っていません。これがどれくらいもつか。若い人ほど代謝がいいから、1時間持たないですね。50分ぐらいでこのエネルギー全部使い果たします。僕ぐらいの年齢だと代謝が悪いので1時間20分ぐらい持ちます。

 子どもは10時ごろにはもう、このグリコーゲンは分解されて血液の中に入って、ブドウ糖に変わります。

 頭を動かすエネルギーは、ブドウ糖以外は受け付けません。グリコーゲンが、ブドウ糖になって血液の中に入ってまた体を動かしたり、脳を動かしたりするわけです。その10㌘は、午前10時になる頃にはもうほとんど脳を動かすことが出来なくなっているわけです。だから集中力は欠け、物事の判断力も落ちます。

 そして、2時限目が体操だとします。まだ体は動きます、エネルギーはないのに。 実はブドウ糖がなくなると途端に中性脂肪がエネルギーになるんです。

 でも中性脂肪はどんなに頑張ってもブドウ糖にはなりません。だから、体は動くけど、脳にはブドウ糖がいかないので頭はぼーっとしているわけです。

 「なぜ朝食を食べないといけないのか」ということを頭に置きながら、そこから食育の大切さをご理解して欲しいと思います。