バックナンバーold / 心に残った言葉

何でも話を聞いてくれる親しい友達を

児童精神科医本間博彰氏
2006年11月20日号
何でも話を聞いてくれる、親しい友達を持とう
児童精神科医本間博彰氏

 児童精神科医をやっていますが、最近、小学校1、2年生で受診する子どもがとても多くなっています。

 授業時間が45分間ですから、それまでの保育園や幼稚園の生活とはスタイルが違う。
 つまり、新しい世界に踏み込む時というのは問題が出てきやすい。言い換えれば、それは「それ以前の発達に不十分さがあった」ということです。

 私たちの人生は、いくつものライフステージから構成されています。そのライフステージが変わる時、病気になりやすいんですね。女性の場合だと更年期障害や更年期うつ病がそうです。

 更年期は、いろいろな変化が起こる時期です。体の変化も起こってくるし、子どもが親から巣立っていく時期でもあります。子育てに一生懸命であればあるほど、子どもがいなくなると心にぽっかり穴が空いてしまう。この頃から夫婦が接触する時間も多くなる。こういう「新しいステージ」にうまく対応できないと、うつ病などの病気が発生しやすくなるわけです。

 日本の離婚には2つのピークがあります。「結婚して3年目辺り」が一つ目のピークで、二つ目は「初老期」です。

 初老期というのは、会社人間だった夫が退職してずっと家にいるようになります。奥さんは、それまでにたくさんお友だちをつくっていますから、その人たちとの交流もあるし、いろんな活動もある。そこに夫が帰ってきて一日中家にいて、「メシ!」とか言ってるから、「粗大ごみ」扱いにされるわけですね。

 新しいライフステージにうまく対応していくことは、大人にとっても重要な問題です。その変化にうまく対応するためには、次のライフステージに向けて準備をしておくことが大事です。

 子ども時代におけるライフステージの一つ目は、赤ちゃんの時代です。

 二つ目は、体の変化が起こってくる小学校5年生ぐらいです。

 この頃の子どもは、「自分って何?」「自分のルーツは何?」「この人たちは本当に自分の親なのかな?」というように自分のアイデンティティーに無意識に向き合うようになります。そして、親を失った話とか、もらい子の話、家出に関心が出てきます。それは全部、「自分のアイデンティティー探し」なんです。

 しばらくすると、それぞれに答えを出していきます。「どうやらこの人たちは本物のお父さんとお母さんみたいだ」とか、「話をしても少しも分かってくれない。やっぱり本当の親じゃないんじゃないか?」とか。

 ですから5、6年生の子で、「随分成長したなぁ」と思える子どもは、「自分のアイデンティティー探し」の壁を超えた子どもだと思います。

 ライフステージの三つ目は、中学2年生頃です。この時期は、ものすごく心の問題が発生しやすい時期です。非行も多くなる。この時期の子どもたちはどんなことに直面しているか?

 心理的な特徴は、直情的な競争心です。「負けたらおしまい」という気持ちがとても強い。

「俺はスポーツが苦手だから、勉強でがんばろう」とか、そういう柔軟性はこの頃にはまだありません。

 「どっちが強いか」「どっちが頭がいいか」と、非行少年同士でも競争します。たとえば、非行グループの中で、腕にたばこの火を押し付けて我慢比べをする「根性焼き」はその典型です。こうした直情的な競争心ゆえに身を壊してしまう時期でもあります。

 だから、「こんな成績じゃダメでしょ!」「いい高校に入れなきゃ」と、子どもを追い詰めていると、子どもたちはいつも緊張感の中で過ごすようになり、学校にもお家にも心の居場所を失います。どこかでリラックスさせ、緊張感を緩めてあげることも必要です。

 心の中に不安や緊張が生まれると、何とかしてそれから逃れようとします。そのコントロールがうまい子もいるし、うまくない子もいる。不登校やひきこもりは、無意識に不安から逃れようとする行動です。親にくっついてきたり、親が手を焼くような問題行動をするのもそのためです。不安定な状態を解消してもらおうと親に接近するんです。

 赤ちゃんは本能的に、不機嫌さとか、イライラとか、さびしさを感じた時、親に身体的にくっつこうとします。これが「愛着行動」です。

 愛着行動を受け入れてもらうことによって、自分が抱えている不安から解放されようとするわけです。

 愛着行動は大人にもあります。でも大人になって、年老いた母親にベタベタくっついたりはしません。大人の愛着行動は「人に話を聞いてもらうこと」です。

 自分で感情をコントロールできないくらいの悲しさやつらさを経験した時には、親しい友だちに話を聞いてもらったりしますよね。

 だから、友だちの多い人は安全なんです。親しい人が多ければ多いほど、いろんな危機的な出来事に遭遇しても救われるチャンスが多くなります。

 子どもでも、いつも友だちから孤立している人は、何か大変な問題に直面した時に、自分の不安をコントロールできなくて潰れやすいです。

 メンタルヘルスの基本は、「自分のサポートネットワークである仲間をどれくらいつくっているか」です。

 「こんなこと言うと笑われるんじゃないか」というような聞きづらい話も聞いてくれる、「ここだけの話なんだけど…」と言いづらいことも話せる、そういうしっかりとした愛着関係を築いていくことが大事なんですね。

 「忙しいから…」と、相手の話を聞くのをやめちゃったり、相手が話す何倍も自分が話してしまうことも、よくやってしまうことです。あるいは、変にアドバイスしてしまったり。でも聞いてるほうは、アドバイスされてもすっきりはしません。

 「ちゃんと聞いてくれた。しっかり聞いてもらえた」と思えるとホッとするものです。「聞く」ということは、とても大事な相手を支援する方法であることを知っておいて下さい。