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転載・過去・未来 2691号(2017/04/17)
その23 いい子を釣り上げる~教育とは「煩わしい仕事」なのです~

熊本県立大学教授(当時) 石橋敏郎
 20年前、私は当時の県知事に会いに行ってこう言いました。

 「知事、熊本県立大学にはつまらん学生ばかり来る。俺はもう辞めようと思います」

 すると知事は「まぁまぁ。先生は大学改革のために熊本に呼んだんだから腰を据えてちゃんと改革をやってください」と言われました。

 そこで私は言いました。

 「じゃあ知事、5人だけでいいから入学者を俺に自由に選ばせてください」と。

 どういうことかと言うと、郡部の農業高校や工業高校で、コツコツ頑張っているいい生徒がいるんです。そういう生徒を探して入学させるんです。

 それから私は毎年熊本県内の高校を3分の1くらいずつ回り、直接生徒に講演しました。

 そうすると後日、私に手紙をくれる生徒がいるんです。「僕は石橋先生のところで勉強したい」と。

 その後、もう一度会いに行って、「この生徒はまじめで、やる気がある」と分かれば釣り上げます。制度としては「推薦入学」なんですが、考え方としては「一本釣り」です。

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 18年くらい前、天草農業高校から1人、熊本県立大学に引っ張ってきました。

 こういう言い方はご無礼ですが、かつて天草農業高校には熊本県立大学に入るだけの学力を持った子はいませんでした。

 一番驚いたのは本人でした。「先生、私は天草農業高校ですけど、いいんでしょうか?」と聞いてきたので、「よかよか、俺が指導する」と言ったら、「本気で頑張ります」と応えてくれました。私はそういう子が伸びることを知っています。

 「この大学は第一志望じゃなかった」と言いながら入学してくる学生は勉強しません。そんな子は就職しても「本当はこの仕事はしたくなかった」と言います。

 それで私はその天草農業高校の子を預かって鍛え、4年後に市役所の職員として地元に戻しました。その子は「天草農業高校の出身だけど、県立大学の石橋先生のところで行政の勉強をした」という誇りを持って地元に帰りました。

 そういう子はまちのために何かをやってくれます。これが私の考える「まちおこし」です。

 その噂が広がって、天草で私の講演会があると、保護者が自分の子どもを連れてくるようになりました。講演が終わったら控室に親子で並びます。お母さんがお子さんを私に紹介します。

 「先生、これが長女のはるえです。バレー部のキャプテンをやっています。やる気はあります。この子を石橋先生の下で指導してください」、そう言ってやって来るんです。

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 私が選んだ5人は最初から「私は石橋先生のところで行政や福祉の勉強をするために県立大学に来た」と言います。だから迷いがない。

 そして1年生の時から私の講演会についてきます。ずっと付きっきりで指導します。教育者が「煩わしい」という気持ちを持ったらおしまいです。

 「大学は自分で勉強するところである」という建前を言う先生が大学には多いです。私に言わせると、手取り足取り指導することが煩わしいんじゃないのかなと思います。

 子どもは大学生であっても手を掛けなきゃ育ちません。教育とは「煩わしい仕事」であって、「それでもいい」という人がなる職業が教師なのです。

(2004年4月19日号より)


★このコーナーは過去26年のバックナンバーの中から選りすぐりの記事に加筆し、読み切りで転載しています。

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