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取材ノート 2664号(2016/09/19)
本を一冊、手のひらに。

編集部 増田翔子
 突然ですがクイズです。

 必ず見たことや手にしたことがあるのに、誰もがその全てのページを読んだことがない本はなーんだ?

 「読書の秋」の季節ですが、今回はクイズの答えである「辞書」に注目してみます。

◎          ◎


 2013年に本屋大賞を受賞し、映画化された本といえば、三浦しをん著『舟を編む』です。主人公の馬締(まじめ)さんが多くの方と協力しながら、15年かけて1冊の辞書をつくるという物語です。

 馬締さんが最後までこだわったのは、辞書の紙質でした。作中では「ぬめり感」という言葉で表現されています。

 「ぬめり感」とは、なめらかで柔らかさを伴ったしなやかな感覚で、油っぽく、しっとりと手にすいつくような感じのことをいいます。

 馬締さんは「ぬめり感」について「めくろうとすると紙が指の腹に吸い付いてくる。かといって、次の紙も一緒にめくれてしまうことはない」と語っていました。

◎          ◎


 辞書に使われる紙は、「薄さ」や「不透明度」が大切です。絶妙な薄さでありながら、裏写りをしない紙が求められます。

 また「色合い」も大事です。ほんのりクリーム色の紙は目に優しいので、文字が読みやすくなります。

 ちなみに『広辞苑』の紙には少しだけ赤色が混ぜられてるそうです。紙を1枚だけ見ても分からないのですが、束にしてみるとぬくもりのある赤色を感じることができます。

 そして最後に大事なのが、「ぬめり感」のような「風合い」です。「風合い」とは、手や肌で触れたときに感じる材質感のことで、本の雰囲気のようなものです。

 書店には多くの辞書が並んでいますが、実はそれぞれの辞書で紙質が異なるそうです。

◎          ◎


 便利な電子書籍も普及していますが、自分の手で紙の本に触れることは素敵なことだと思います。こだわりの詰まった紙質も本の魅力だとしたら、それを楽しまないのはもったいないですから。

 今週の1面で特集している㈱サンマーク出版の植木宣隆社長は、「手のひらに、一冊のエネルギー。」という考え方を大切にされています。

 一冊の本には著者をはじめとして、編集者や装丁家の人の思いがギュッと込められているのです。それは、本を手のひらに乗せることで初めて伝わってくるのだと思います。

 本を手に取ってみると、他にもいろんなことが分かります。カバーの素材、本の重みや厚さ、背表紙の形、インクの匂い、紙のめくれる音、などなど。

 この秋の読書は、そんな本の「個性」を感じてみてください。そしてぜひ辞書を手にとって、紙の「ぬめり感」もご体感ください。 
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2723号2017年12月18日発行

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