ホーム記事一覧取材ノート

取材ノート 2671号(2016/11/14)
泣いてはいけない?

編集部 野中千尋
 先日、作家など幅広く活動されている石川真理子さんの講演を取材しました。

 戦後から失われつつある日本人の心を伝える石川さん。その思いは、祖母・セツさんの存在が芯となっていました。

◎          ◎


 明治22年生まれのセツさんは、武家の娘として厳格なしつけを受けた「筋金入りの明治女」だったそうです。

末孫としてセツさんを慕っていた石川さんは、のちにセツさんの厳しくも優しい教えの中に「人としての心得」や「女性としてのあり方」が散りばめられていることに気づき、セツさんの生き様や教えを本にして伝えることにしました。

 そのうちの一冊が『女子の武士道』(致知出版社)です。その中に、印象に残った話がありました。

「どんなに悲しくったって、人前で泣いてはいけないよ。女の子なんだから」

 セツさんは、まだ幼い石川さんが泣いていると「泣いて済ませるのは卑怯者のふるまいなんですよ」と教えたそうです。

 「子どもにそこまで言わなくても…」と思いますが、これにはきちんとした理由がありました。

 女性が泣くと、周りの人は「どうしたんだろう」と心配しますよね。「涙は女の武器」という言葉もあるように、女性の涙はとても影響力があります。

 だからこそセツさんは「自分の悲しみで周囲を振り回してはいけません」と、石川さんを幼いうちから戒めたのです。

 しかし、涙を流すことが全くもっていけないわけではありません。セツさんが女学生のとき、こんなことがありました。

 ある日、セツさんの家に千代さんという女性が訪ねてきました。千代さんも武家の娘でしたが、没落寸前の一家を支えようと仕事を求めてきたのです。

 気の毒に思ったセツさんの父親は働き口を世話したのですが、そのとき千代さんは嬉しさのあまり涙を流しました。

 「武家の娘は泣いてはいけない」と教えられてきたセツさんは、いけないものを見た気がして思わず目をそらしました。

 すると、セツさんのお母さんがこう言ったのです。

 「人の情けに触れたときに流す涙はうつくしいものですよ。ごらんなさい、胸が熱くなるようです。こんなに喜んでいただけて幸せだこと…」

 セツさんはのちにその思い出を振り返り、「おそるおそる見れば、確かに心が動かされるくらいきれいな涙だった」と語りました。

◎          ◎


 余談ですが、明治生まれの浅草女を自負していた女優・沢村貞子さんも、お母さんに「女の子は泣いちゃいけないよ」と言われて育ったそうです。

 理由を尋ねられたお母さんの飾らない答えを、私はとても気に入っています。

 「泣いてると、ご飯の仕度がおそくなるからさ」
最新号

2723号2017年12月18日発行

カレンダー
<前月  2016年11月  翌月>
 
 
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
 
 
 
ブログ
  • 水谷もりひとブログ
  • くるみノート
  • とね書
  • スタッフブログ