ホーム記事一覧取材ノート

取材ノート 2686号(2017/03/13)
ガンジス川の少年

中部特派員 山本孝弘
 私は20代の頃、東京でフリーターをしていました。毎日朝から晩まで働いてお金を貯め、ある程度貯まるとアジアの街へ放浪の旅に出ていました。

 タイ、ラオス、ベトナム、マレーシア…、いろいろな国に行きました。どの国にも素晴らしい魅力があります。

 そんな中、一番衝撃的だった国といえば、インドでした。

◎          ◎


 野良牛がわが物顔で闊歩(かっぽ)するインドでは、今まで見たことのないものや会ったことのない人に毎日出くわします。

 街中にあからさまな欲望が渦を巻いており、その喧騒の中にいると自分の価値観が崩れていくのが分かります。それを心地よく感じることもありますが、油断していると危うい雰囲気に飲まれそうになります。

 行く度に「もう二度と来ない」と思い帰国するのですが、なぜかまた行ってしまうのです。

◎          ◎


 3度目のインドの旅での出来事です。私はネパールからおんぼろバスに乗り、24時間かけてインドに入りました。硬い木の座席でエアコンもなく、長時間の移動はそれなりに過酷でした。

 バラナシに着いたのは夕方でした。ガンジス川での沐浴で有名な街です。私は適当な安宿を見つけ、丸太のように眠り続けました。

 翌日になっても疲れは取れず、なかなか起きられませんでした。宿のベッドでガイドブックを見ながら、次はお釈迦様が悟りを開いた街、ブッダガヤに行こうかなと漠然と考えていました。

 夕方、ふらっと宿を出てみました。

 「ミルダケOKデス」「ヤスイ、ヤスイ!」といろんな物売りが片言の日本語で話しかけてきます。疲労困憊の私は彼らとのやり取りを楽しむ余裕もなく、日本語も英語も一切通じないふりをして歩いていました。

 訝(いぶか)しげな眼差しで物売りたちが去っていく中、一人の少年がついてきました。

 「You must be Japanese.(おまえは日本人に違いない)」

 15歳くらいの彼はそう言って妙に楽しげにずっと話しかけてきます。

 私は「早く諦めてくれ」と思いながら無言で歩き続けました。すると彼は私の前に立ちはだかり、こう言ったのです。

 「世田谷、阿佐ヶ谷、ブッダガヤ!」

 私は声を上げて笑い転げました。完全に私の負けでした。観念した私は彼から絵葉書を数枚買い、屋台で彼にコーラをおごってあげました。

 彼と川辺に座り、ガンジス川に沈む夕陽を見ていたら不思議とそれまでの疲れが消えていきました。

 インドは心も体も掻き乱されますが、いつかまた訪れたい国です。最近、インドがまた私を呼んでいる気がします。

 あの国には何かがあります。
最新号

2723号2017年12月18日発行

カレンダー
<前月  2017年03月  翌月>
 
 
 
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
 
ブログ
  • 水谷もりひとブログ
  • くるみノート
  • とね書
  • スタッフブログ