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取材ノート 2710号(2017/09/11)
変わらないもの

編集部 野中千尋
 8月21日号の社説で「変態」の話が出ました。もちろん生物学の専門用語のほうです。

 「幼虫がサナギに、サナギが成虫になること」なのですが、社説では「とんでもない成長をする」という意味で人間にも当てはめられていました。

 人間だと過去の経験や出会いをきっかけに「変態」に至っていることが多そうですが、本来の意味で変態する昆虫にも、羽化していく際に興味深いことが起こっていると分かりました。

◎          ◎


 昔は、チョウを始め変態する虫の幼虫は一度サナギの中で溶けて「生命のスープ」のような状態になり、全てがリセットされた別の生き物として羽化すると考えられてきました。

 ですが2008年に、アメリカの生物学者ダグ・ブラッキストン氏の研究チームがこのような疑問を抱きました。「幼虫時代の経験は、羽化しても引き継がれるのだろうか?」

 そこで「スフィンクス」という種類のチョウ目の幼虫に対し、ある実験を行いました。幼虫に対し匂いと一緒に軽い電気ショックを与え、その後同じ匂いに対する反応を見るというものです。

 結果、電気ショックで痛い思いをした幼虫は、再びその匂いを嗅いだだけで逃げるようになってしまいました。

 時は流れ、その幼虫は立派に羽化しました。そこで再び同じ匂いを嗅がせてみると、幼虫の頃と同じように慌てて逃げ出したのです。

 変態する昆虫の記憶力が証明された研究はこれが初めてで、当時は非常に驚かれたそうです。

◎          ◎


 さて、この実験だけではチョウがちょっとかわいそうな気がしますが、その後こんな話も見つけました。日本でチョウを飼育している人が、インターネット上にこんな投稿をしていたのです。

 「野生のチョウは手を出すと逃げるけど、今飼育しているこの子たちは逆に自分から手に乗ってくる」

 そして、「幼虫の時から手に乗せて可愛がると、羽化した後もその人間の手を覚えているのだと思います」と。

 この意見に賛同する人は多く、まるで大きなアクセサリーのように、人間の指や耳の上で羽を休めるチョウたちの写真が次々に投稿されていました。

 「自分の全てが作り変えられても、あの頃乗っていた人間の手のひらが優しかったことを覚えているんだね」という言葉に心温まるものを感じました。

 図らずも、アメリカの記憶実験に繋がる素敵な例になったのではないでしょうか。

 私もこのチョウのように、成長して大きな変化を遂げられたとしても、過去の温もりや受けた恩を忘れずに羽ばたいていきたいと思いました。
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2723号2017年12月18日発行

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