ホーム記事一覧取材ノート

取材ノート 2711号(2017/09/18)
友人の母に捧げるバラード

中部特派員 山本孝弘
 先日、ラジオを聴いていたら海援隊の『母に捧げるバラード』が流れてきました。武田鉄矢さんが母から言われた小言がそのまま間奏の台詞になっています。

 「こら、テツヤ!」から始まる博多弁を聴いていたら、ある「博多の母」を思い出しました。

◎          ◎


 大学時代、「テツヤさん」という親しい先輩がいました。

 お互い遠く離れたアパートに住んでいましたが、プロ野球を観に行ったり、食べ放題の店で馬鹿食いをしたりといつも連れ立って遊んでいました。二人でクイズ番組に出場したこともあります。

 大学を出た後もお互い東京にいたので、学生時代と変わらずよく一緒に飲んでいました。しかし、しばらくするとテツヤさんは会社を辞めて博多に帰る決心をしました。「東京生活が淋しくなるな」と思いました。

 ある朝、私がバイトに行く支度をしていた時、電話が鳴りました。

 「今、東京駅におるったい。いよいよ東京を卒業するばい」

 あれ、今日だっけ? 帰る日をすっかり忘れていました。くだらない思い出を散々話した後、彼がふいに言いました。

 「おまえ、今までありがとう。それば言いたいけん電話したったい」

 その言葉を聞いて、急に涙が出てきました。自分でも驚きました。

 「なん泣きようとや?」、彼はそう言って笑いました。

 当時は携帯電話も普及しておらず、SNSもありませんでした。月日が経ち、彼とは次第に疎遠になっていきました。

◎          ◎


 私が仕事で何か失敗をした日だったと思います。

 「こんな日は昔だったらお酒を持ってテツヤさんのアパートに行ったよな…」

 初秋の晩、部屋で一人お酒を飲んでいたら急にそう思い、何年振りかに彼の家に電話をしてみました。出たのはお母さんでした。

 「テツヤはまだ帰っとらんとよ。悪かね」

 私がお礼を言って受話器を置こうとした時でした。

 「ちょっと待ってん! 山本さんってゆうたばってん、学生時代にうちに遊びに来た山本くんやないと?」

 「覚えていてくれたんですか!」と私が言うとさらにまくし立てられました。

 「当たり前やないね! 何で黙って切ろうとするとね。ほんなこつ冷たかね~。元気にしとう? あんた愛知に帰ったと? まだ東京におるとね。ちゃんと栄養のあるもんば食べよう? お酒飲み過ぎとらんめえね」

 そんな温かい方言を聞いていたら、ふいに目頭が熱くなりました。優しさに溢れたあの博多弁が今も耳の奥に残っています。
最新号

2723号2017年12月18日発行

カレンダー
<前月  2017年09月  翌月>
 
 
 
 
 
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
ブログ
  • 水谷もりひとブログ
  • くるみノート
  • とね書
  • スタッフブログ