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取材ノート 2715号(2017/10/16)
あぁ、店内放送の悲劇…

中部特派員 山本孝弘
 ある大型店舗で買い物をしていたら店内放送が流れてきました。そのあまりに流暢な言葉の流れに驚きました。店員さんに聞くと、店内放送に力を入れており、年に何度か会社全体で講習を受けているとのことでした。

 私は昔、スーパーで働いていたことがあります。その時の忘れられない店内放送がふいに思い出されました。

◎          ◎


 M店長は店内放送が下手でした。行き当たりばったりで喋るので結局のところ何を売りたいのかさっぱりわかりません。お客さんもただの雑音に感じていたと思います。

 ある日のことです。店が混み始めた夕方、下手な店内放送が始まりました。

 「えぇっと~、いらっしゃいませ、いらっしゃいませ。本日も~、え~今日もまた、ご来店あり、ありがとうでござ、ござる。ただいまの時間のお買い得商品は~、豚さんが、豚のこま切れ肉が~」

 そんな店内放送が流れ始めた時、レジにいたアルバイトのS君がレジを離れようとしました。トイレに行こうとしたのかもしれません。

 ですがたまたまお客さんが途切れたといっても、夕方は忙しいのでレジをフル回転させなければいけません。

 店長はそれを見逃しませんでした。

 「豚のこま切れ肉が、通常100グラム138円のところ、今だけは~、今の時間は~、あっ、おい! ちょっと待て! どこに行くんだ、こら!」

 S君への怒りの声が放送を通じて店内に響き渡りました。

 私は村上春樹の小説の主人公よろしく「やれやれ」と思いました。

◎          ◎


 その放送が流れる少し前のこと。私はよく買い物に来てくれるおばあちゃんと話をしていました。

 「明日葉はある?」と聞かれましたが、ちょうどその時切らしていました。

 「すみません。今日はあいにく切らしちゃってるんですよ」

 「そう、残念だねぇ。悪いけど今日はあっちで買い物するね」

 「あっち」とは斜め向かいにある大型スーパーのことです。 

 「すみません。でもまたアシタバこっちに来てくださいよ」

 私はまだ若かったですが、そんなオヤジギャグを言いました。でもおばあちゃんはそれには気付かず、申し訳なさそうに微笑みながら出口へと向かっていきました。

 まさにそのタイミングだったのです。スピーカーから大声が聞こえたのは。

 「あっ、おい! ちょっと待て! どこに行くんだ、こら!」

 おばあちゃん、肩がぴくっとなって、「ひぇっ」とか細い声を出しました。

 M店長の下手な店内放送が凶器へと変わった瞬間でした。
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