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取材ノート 2734号(2018/03/19)
怪しいのがお好き

中部特派員 山本孝弘
 私の住む愛知県豊橋市の街はずれにフィリピン料理レストランを見つけました。1階にあるお洒落なピザ屋さんの脇の階段を昇ったところにそれはあります。

 中に入るとフィリピンの食材を売る店があり、その奥がレストランになっていました。何の洒落っ気もありません。しかし妙に落ち着く雰囲気でした。

 日本語が話せないフィリピン人の店員が不思議そうに私を見てきました。笑顔を返すと訝(いぶか)しげだった顔が笑顔になりました。

 メニューは壁に大きく貼り出されていました。一応英語表記なのですが、なにせフィリピンの料理名なので「Rice」(ご飯)以外わかりません。適当に頼みました。現地の味が広がりました。

 昼は11時開店なのに、12時に行ってもすべての椅子が机の上に上げられ掃除をしている時もあります。いつも1人か2人の店員がいるのですが、行く度に顔ぶれが違います。いったい何人が働いているのかわかりません。

 そしていつ行っても客は私しかいないのです。この不思議な怪しさがなぜか心地いいです。

◎          ◎


 「ここなら落ち着いて本が読めるな」と思い、夜に行ってみました。やはり客は私しかいませんでした。店員の娘と思われる5歳くらいの女の子が日本語で話しかけてきました。屈託のない笑顔でずっと話すので、私は読書を諦め、無邪気な話に付き合いました。

 少しするとお母さんが来て「友だちになったの? よかったねぇ~」と英語で言いました。なぜ母国語のタガログ語を使わないのだろうと思ったら、彼女は娘ではなく私に話し掛けていたのでした。

 「マニラにいるいとこをあなたが勤める会社で働かせることはできるか」と聞いてきた男性店員もいました。

 またある女性店員は私に既婚者かどうか尋ね、そうだと答えると、「奥さんの出身地はどこ?」とさらに聞いてきました。「隣の豊川市だよ」と答えたところ、「えっ? 奥さん日本人なの?」と驚かれました。こっちが驚きました。

◎          ◎


 ある夜、店でビールを飲みながら本を読んでいたら寝てしまいました。1時間半も寝ていたようですが放っておかれました。メガネと本が下に落ちていましたが、それも放っておかれました。そんな適当なところが素敵です。

 寝ている間、マニラの場末の食堂でご飯を食べている夢を見ていました。起きた後、ぼんやりした頭で「どうやってホテルに戻るんだったかな」と思いながら店を出ると、そこはいつもの豊橋でした。

 そんな怪しい店で本を読む時間が、最近の私のささやかな楽しみです。
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