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取材ノート 2743号(2018/05/28)
夕暮れの図書室の思い出

中部特派員 山本孝弘
 レンタルDVD屋で昔の映画のコーナーを見るのが好きです。懐かしいパッケージを見ていると心が過去に引き戻されます。

 先日、『アイコ十六歳』というDVDを見つけました。弓道部を舞台にした学園ドラマで、私が中学生の時の映画です。内容はすっかり忘れていましたが、別のある記憶が蘇ってきました。

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 中学生の時、私は弓道部に所属していました。私の住んでいた市内で唯一弓道部のある中学校でしたから、当然市長杯はいつも優勝です。

 よせばいいのに毎年全校集会で表彰されました。いつも失笑が漏れ、とても恥ずかしい思いをしていたことを覚えています。

 同級生にNという部員がいました。彼は私とは違い、常に高い意識を持って練習に取り組んでいました。彼は県大会で入賞し、その後全国大会の個人戦で3位になったのです。

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 中学を卒業したNと私は同じ高校に進学しました。入学式の帰り、彼は当然のように私に言いました。

 「お前も弓道部に入るだろ?」

 思春期の少年の気持ちは今ではわかりません。なぜかその時、私は彼に怒りを感じたのです。

 「入らないよ! あんな地味な競技はもうコリゴリだ! お前はせいぜい頑張れよ!」

 彼は一瞬むっとしましたが、すぐに淋しそうに下を向いたのを覚えています。その日以後、彼とは口を利かなくなってしまいました。

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 はっきりとした意思もないまま、どの部に入ろうか考えているうちに初夏になってしまいました。私は部活を始めるタイミングを完全に逃しました。

 そんなある日の夕方、私は図書室の窓からグラウンドで部活に励む友人たちを眺めていました。その時、ふいに気配を感じて振り向くとそこにNがいました。

 「結局部活には入っていないのか?」

 Nの言葉に情けなさが込み上げてきました。しかし、その後彼はにっこりと笑い、私にこう言ったのです。

 「また一緒にやらないか?」

 目頭が熱くなった私はとっさに顔を背け、夕陽を見るふりをしました。

 彼が顧問の先生と先輩に口を利いてくれたおかげで、私は遅ればせながら弓道部への入部を認められました。

 部活中に先輩と抜け出してキャッチボールばかりするようなダメ部員になってしまいましたが、楽しく3年間を過ごせたのは、あの日Nが見せた笑顔のおかげでした。

 そんな彼とはもう35年の付き合いになります。

(中部特派員/山本孝弘)
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