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取材ノート 2757号(2018/09/10)
30歳過ぎてからの語学留学

中部特派員 山本孝弘
 トム・ハンクス主演の『フォレスト・ガンプ』を約20年ぶりに観ました。南部訛りの英語が懐かしく耳に沁み込んできました。

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 ずっと昔、私はスーパーで働いていました。新緑が芽生える初夏のある日、2歳年下の女性がレジ係で採用されました。

 噂によると彼女は以前アメリカに長く住んでおり、デルタ航空の客室乗務員をやっていたとのこと。少し興味が湧きましたが、レジ係の彼女とは仕事上の接点はありませんでした。

 月に一度の朝の大掃除の時、ふいに彼女が私の所にやってきました。

 「精肉売り場の方ですよね? 牛のレバーって今日ありますか?」

 学生時代英語だけが得意だった私は、英語でこう返してみました。

 「キミが今晩作る予定の牛レバー料理は豚レバー料理に変えた方がいいよ」

 彼女はとても驚いた顔をしましたが、すぐに笑顔になり英語で一気にまくしたてられました。3分の1も聞き取れませんでしたが、南部訛りの英語だということはわかりました。

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 その日から、彼女とはよく話をするようになりました。

 彼女は中学を出ると単身アメリカへ渡り、アメリカの高校、大学を卒業したそうです。元客室乗務員だという噂も本当でした。2年前、夫の転勤で日本に帰ってくるまで12年ケンタッキー州に住んでいたとのこと。私は彼女の経歴に圧倒されてしまいました。

 彼女と休憩時間が同じ日は近くの喫茶店に行って英語を教えてもらうこともありました。

 ある日のこと。残暑の厳しい夏の終わりの昼下がり、彼女はふいにアメリカの大学のパンフレットを喫茶店のテーブルに出しました。

 「ずっとあそこで働くつもりはないんでしょ? だったら語学留学してみない? なかなか経験できないよ。まだ独身だし、これが最後のチャンスだよ」

 最初、私は一笑に付しました。突拍子もないことを、と思ったのです。でも学園風景の写真を見ていたら、私の心は無邪気な少年の頃に引き戻されていきました。

 夏の終わりを告げるツクツクボウシの鳴き声だけが聞こえてきました。

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 そして私は2002年秋から半年間アメリカに行きました。そこで様々なハプニングに見舞われることになるのですが、その話はまたいつか。

 発つ2日前に彼女とカクテルバーに行きました。会うのはこれが最後だなとお互い感じていました。そしてそうあるべきだと思っていました。

 彼女の青いイヤリングがライトに照らされて煢然(けいぜん)と光っていたことを覚えています。

(中部特派員/山本孝弘)
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