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取材ノート 2758号(2018/09/17)
言葉を超えた衝撃

編集部 鬼塚恵介
 100回の記念大会で盛り上がった今年の「夏の甲子園」ですが、昨年の大会でこんなことがありました。

 3回戦の仙台育英対大阪桐蔭の試合。1-0の大阪桐蔭リードで最終回を迎えました。

 九回裏の仙台育英は二死ランナーなしからヒットと四球で1、2塁としました。しかし7番打者がショートゴロ。一塁に送球してゲームセット、と思ったら一塁手の足がベースから離れており、満塁になりました。

 私はショートゴロで試合が終わったと思いました。選手も、観客もそう思ったはずです。離れた足をしっかりと見ていた一塁の塁審とベースコーチ以外は―。

 次の打者が2球目を左中間に打ち、2点タイムリーヒット。仙台育英が逆転サヨナラ勝ちしました。勝ったチームには劇的な、負けたチームには残酷な試合の幕切れに、私はテレビの前で呆然としました。

 ふと気付くと、テレビから声が消えていました。実況のアナウンサーが何も話さなくなったのです。仙台育英の選手たちが応援席へあいさつに行ってもまだ話しません。カメラが大阪桐蔭の選手たちを映した時、アナウンサーは隣の解説者に向けて次のように言いました。

 「…(大阪桐蔭の選手たちに)どう言葉を掛けたらいいでしょうか」

 私は驚きました。アナウンサーが言葉を失っていたのです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 そのアナウンサーは、NHK大阪放送局の冨坂和男さん(51)。あの場面の気持ちが知りたくて、電話でお話を伺いました。

―試合終了後、どんな心境でしたか?

 「九回のショートゴロで大阪桐蔭が勝利したと思ったんですね。そしたらあんなことが起きて…試合の結末に大変な衝撃を受けました。一塁手の気持ちを思うと言葉が見当たりませんでした」

―あの試合は、冨坂アナにとってどんな試合になりましたか?

 「勝負の怖さを再確認しました。言葉を超えた衝撃がスポーツでは起こります」

 冨坂アナは、今年も3回戦で大阪桐蔭の試合の実況を担当しました。全くの偶然だそうです。「公平な視点で実況しています」と断ったうえで、「昨年のこともあり、特別な思いがありました」と言います。その試合は大阪桐蔭が勝利しました。

 「彼らは去年つらい思いをしましたが、重い空気を自分たちの力で振り払いましたね」
 試合後、冨坂アナはこう実況し、感慨を覚えたそうです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その試合で九回二死から守備のタイムをとり、チームを引き締めたのは、昨年一塁手で痛恨のエラーをした中川卓也選手、その人でした。

 彼は新チームで主将を任され、今大会で見事春夏連覇を達成。閉会式で深紅の大優勝旗を受け取ったのでした。

(編集部/鬼塚恵介)
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