ホーム記事一覧取材ノート

取材ノート 2766号(2018/11/19)
靴下のプレゼント

中部特派員 山本孝弘
 車のボックスを整理していたら、昔買ったジッタリン・ジンのCDが出てきたので、久しぶりに聴いてみました。

 男性からもらった贈り物を羅列する「プレゼント」という曲が流れ始めました。あまりプレゼントをもらったことがない私ですが、一つ忘れられない思い出があります。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 私は若い頃、スーパーで働いていました。最後に担当した精肉売り場には自分の母親くらいの歳のIさんというパートの女性がいました。目立つ人ではありませんが、優しい雰囲気の方でした。 

 彼女はドラゴンズが大好きで、勝った翌日は彼女とドラゴンズの話をするのが楽しみでした。

 以前書いたように、私は会社を辞めてアメリカに語学留学をすることを決めました。

 それを知ったIさんは、「ショックだわぁ~。田尾が中日から西武にトレードされた時くらいショックだわ」と、昭和からのドラゴンズファンにしか分からないようなことを言いました。

 Iさんは「淋しくなるなぁ」と仕事中何度も言うようになり、ため息をつく時すらありました。その度に申し訳ない気持ちになりました。

 ある日、Iさんはため息をつきながら牛ミンチのパックに貼るシールを豚肉のパックに貼ってしまいました。上司が来る前に一緒に慌ててパックし直しました。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 私が最後に出勤した日のこと。少し照れ臭そうなIさんから「よかったら履いて」と餞別の品を渡されました。

 「アメリカに行っても元気でね」

 心の籠った贈り物は何よりも価値があります。お礼を言って受け取りました。

 その後、いつも通り仕事をしていると前の店舗でお世話になったM店長が突然やってきました。何か用事があったのかと思いきや、私にさよならを言うためにわざわざ来てくれたのです。思わず泣きそうになりました。

 仕事が終わり、車の中でIさんからもらった何の洒落っ気もない無地の紙袋を開けると、そこには靴下が3足入っていました。

 「あまり他人にプレゼントをしたことがないIさんが、今日はいつもより早く家を出て、どこかの店でこれを買ったんだな。『どの靴下が似合うだろう』と考えながらこれを選んでくれたんだな」

 そう思うと涙が出そうになりました。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 秋の東の夜空にはオリオン座が見えました。

 「アメリカってどんな国なんだろう」

 そう考えながら私は車のエンジンを掛けました。そしてお世話になった職場を後にし、アクセルを踏み込んで人生の次のページへと進みました。

(中部特派員/山本孝弘)
お友達紹介
最新号

2769号2018年12月10日発行

カレンダー
<前月  2018年11月  翌月>
 
 
 
 
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
 
ブログ
  • 水谷もりひとブログ
  • くるみノート
  • とね書
  • スタッフブログ