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転載・過去・未来 2671号(2016/11/14)
その6 幸せになる努力 ~私がトイレ訓練の話をする理由~

熊本県いのちの会代表(当時) 野尻千穂子
 私は車いすの生活をしています。圧迫性脊髄炎という病気で、胸から下の感覚がありません。

 障がい者になっていろんな人との出会いがありましたが、心の優しい人ばかりとは限りません。平気で人の心を傷つけるようなことを言う人もいます。

 16歳の時、知り合いの人が家にやってきてこう言いました。

 「あんたが長い間入院したせいで父ちゃんは田畑を売って入院費を払ったつばい」

 私は、父がどのような都合を付けて入院費を払ったのか知りませんでした。まさか大切な田畑を売ったなんて思ってもいませんでした。

 私はその日の夜、涙が止まりませんでした。そして「あの人が私の親でなくてよかった」と思いました。だって私の親は私にそんなことを一生口にする人ではないからです。

 それともう一つ分かったのは、「病気で苦しんでいたのは自分だけじゃない。家族みんなが私のせいでつらい思いをしていたんだな」ということでした。

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 眠れないある日の夜、私がぼーっとしていると、たくさんのおむつを干している母の姿が見えました。私のおむつです。「お母さんは偉いな。お母さんに親孝行をしたいな」と、生まれて初めて心の底からそう思いました。

 そして、「おまえが娘でよかったよ」と、そう言われる娘になりたいと思いました。「こんな体だけど、私、幸せだよ」と言えるような生き方をしたいと思ったのです。

 「この体を使って自分が望んでる幸せに向かって努力して生きていこう。日本一素敵な障がい者を目指そう」と決心しました。17歳の夏でした。

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 翌日からトイレの訓練を始めました。幸い両腕は動きます。左のほうに両足を曲げ、左手で足首を掴み、右手で這って、自分の体をトイレまで運びます。3日もしないうちに手足の皮膚が剥けました。

 そこで父の厚い靴下を足に履き、軍手を手にはめ、訓練を続けました。

 トイレに着くと、付けているおむつをはずし、両手を使って膀胱を押さえ体をゆすります。その刺激で少しだけ尿が出ます。一回トイレに入ると、そのような刺激を15回から20回ほど繰り返します。ですから私の一回のトイレの時間は20分から30分はかかってしまいます。

 なぜここまで細かくトイレ訓練の話をするのかというと、「それでもまだ私は自分で用が足せるから幸せなんだよね」と思いながら生きている人間がいるということを皆さんに知ってほしいからです。

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 半年かかっておむつをはずせるようになりました。トイレに入ったとき、おむつが尿で汚れていないのを見て、とても感動しました。

 「不可能を可能にするのも自分の意志次第なんだな」と思いました。

 皆さんの人生にも自分が頑張らないと掴めない幸せがあるということです。

 たとえ親が悪かったり、環境が悪かったり、友だちが悪かったとしても、周りのせいにしていたら幸せになれません。幸せになるための努力をする自分になることです。

 おむつがはずれたことで私は障がい者の施設に行けるようになりました。20歳の時、車の免許を取り、故郷の阿蘇を離れて熊本市内で一人暮らしを始めました。

 そして障がい者の活動をする中で、今の夫となる男性と出会い、結婚し、後に母親となることができたのです。

(1999年5月24日号より)
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