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転載・過去・未来 2675号(2016/12/12)
その10 これが人情~感動したらつい宣伝をしてしまう~

日本ふるさと塾主宰 萩原茂裕
 長野県の野沢温泉村で第15回インタースキーの大会が開かれました。世界35か国からスキーの指導者たちがやって来ます。その開会式で村長がこんなあいさつをしました。

 「ようこそ野沢へお越しいただきました。さして立派な建物があるわけではありませんが、日本一自慢できるものがあります。それは村の人の心です。その心を十分に満喫してお帰りください」

 私はそれを聞いたとき、正直「ちょっと言い過ぎじゃないか」と思いました。

 大会会長さんも同じことを思われたようで、閉会式では「開会式で村長さんが言われたことは本当でした。各国の選手団から、『この村の人から温かいおもてなしを受けて嬉しかった』という声をたくさん耳にしました」とおっしゃっていました。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 私も野沢温泉村に惚れこんでしまった1人です。

 何年か前のお正月のことでした。私は家内とこの村のスキー場に向かいました。

 歩きながら家内が私に、「村役場はどこでしょうねぇ?」と聞いたんです。

 するとすぐ前を歩いていたおばあちゃんがその言葉を聞いて振り返り、「私がご案内しましょうか?」と言ってくださったんです。

 よその町でこんなことありますか? ほとんどはみんな知らん顔ですよね。

 ではなぜこの村ではこういう心づかいができるのでしょうか。答えは簡単です。「スキー場をみんなで作ったから」です。だからスキーに来るお客さんを全部「私のお客さん」と思えるのです。

 やがてスキー場に着きました。この年、全国的に雪不足だったのですが、野沢にだけドサッと雪が降りました。ですからとりわけお客さんが多くて、待ち時間が2時間半もありました。

 そこで私たちはお店に食料を買いに行くことにしました。お店のご主人に、「あんパンか何かありませんか?」と聞きました。

 そのご主人の応対が見事でした。

 「せっかくお越しいただいたのに申し訳ありません! うちはパン類は扱っていないんです」

 そしてすかさずこう言いました。「でもお客さん、一軒置いて隣のお店でサンドイッチを作っておりますが、そちらでいかがでしょうか」

 そう言われて、私は「はい、そうですか」とは言えませんでした。何でもいいからここで買ってあげたいと思いました。

 そうしたらこのご主人が、「時間がおありでしたらあべかわ餅でも作りましょうか?」と言ってきたのです。すごいと思いました。

 10分くらいして、私はあべかわ餅を受け取り、お礼を言ってお店の外へ出ました。

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 お店を出るとすぐ「お客さん!」と呼ばれました。振り返ると、先ほどのご主人でした。

 「何人で召し上がるんですか?」と聞かれたので「4人です」と言うと、ビニール袋を四つ持ってやってきました。そして「お客さん、お餅だけでは後口が悪いでしょうからこれもどうぞ」と野沢菜を付け足してくれたんです。

 皆様方はこの話をどのようにお聞きになられるでしょうか。私はこの話をしながら、「恐ろしいことだなぁ」と思っているんですよ。

 なぜなら、私は野沢温泉村から宣伝費を1銭ももらった覚えはないんです。でも頼まれなくても、全国各地で野沢温泉村の宣伝をしているんです。ついほめてあげたくなるんですね。これが人情なんじゃないでしょうか。

(2000年7月24日号より)


★このコーナーは過去25年のバックナンバーの中から選りすぐりの記事に加筆し、読み切りで転載しています。
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