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転載・過去・未来 2678号(2017/01/16)
その11 心の読書~知らないうちに子どもが育っていく~

中央大学講師(当時) 坂本光男
 今の子どもたちは政治家とか学校の先生とか、世の中のことや大人のことをあまり信用しなくなってきました。

 それは周りにいる大人が信用されるようなことをしていないからです。こんな世の中になっている今だからこそ、本がとても大事だと私は思っています。

 うちの孫たちに人気があるのはシートン動物記の『狼王ロボ』です。孫が小学1年生の時でした。私の娘がその本を読んであげていると、「お母さん、僕の目どうかしてる?」と聞いてきたんです。

 「どうして?」と聞くと、その本を読んで感動して涙が出ていたんです。だけど小さいから何で涙が出てくるのか分からなかったんですね。

 娘は「素晴らしい本を読むとね、自然に涙が出てくるときがあるのよ。お母さんもこの本を読んだ時はいっぱい涙が出てきたんだよ」と言ったそうです。

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 『大きなかぶ』という絵本をご存じですか。「うんとこしょ、どっこいしょ」と、ネコやネズミまで一緒になって大きなかぶを引っこ抜くお話です。

 「これを家でやろう」ということになり、私がかぶの役になって、家内と娘を呼んできてやってみたんです。でも家族では足りなくて、最後には隣のおばさんまで呼んで「うんとこしょ、どっこいしょ」ってやりました。

 その時、娘が「いいね、いいね。力を合わせれば抜けるよね」と言ったんです。知らない間に『大きなかぶ』の中から大切なものを学び取っていました。

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 相田みつをさんの作品に『トマトとメロン』というのがあります。これを小学1年生の公開授業で使いました。

 トマトとメロンの絵を見せながら、「トマトとメロンはそれぞれ自慢できるものを持っています。さぁ、どんな点が自慢できるでしょう。グループで話し合ってください」と投げかけました。

 いろんな答えが出ました。「トマトは赤いのが自慢で、食べるとピュッと甘い汁が出る」とか、「トマトは安くて数が多く買える」とか。メロンについては、「いや、こっちのほうが甘い」とか「おいしい」など。

 中に1人、「メロンは病気のお見舞いに役立つ」と答えてくれた子どももいました。

 相田みつをさんはこの作品の中で何が言いたかったのかというと、「それぞれ良い点があるけど、自慢し合うばかりじゃなくて、良い点を認め合っていくことが大事じゃないか」ということでした。

 そこで子どもたちに問題を出しました。

 「トマトとメロンが自慢し合ってるだけじゃケンカになっちゃう。どうしたらこの両方が仲良く生きていけるだろう」

 どんどん手が挙がりました。「半分ずつ食べてみればいい」という意見も出ました。

 もうそろそろ40分の授業が終わろうとしていたとき、1人の女の子が手を挙げました。

 「人それぞれに違いがあって、それぞれにいい点があるんだから、認め合って生きていけばいいと思います」

 この授業を後ろで見ていた20人ばかりの先生たちが「おぉ」と驚きの声を上げました。

 授業が終わって、私は担任の先生に聞きました。「あの子のあの表現力って何でしょうね」

 すると担任の先生は、「あの子はよく本を読んでいる子です」と答えてくれたんです。

 だからあんなに素敵な言葉で表現できる力があったんですね。

(1999年7月5日号より)


★このコーナーは過去26年のバックナンバーの中から選りすぐりの記事に加筆し、読み切りで転載しています。
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