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転載・過去・未来 2704号(2017/07/24)
その36 こころの力~丸暗記の「変わらない」不思議な力~

臨済宗妙心寺派 福聚寺住職 玄侑宗久
 これから瞑想のまねごとをしてみたいと思います。

 目を閉じてカレーライスを思い浮かべてください。そのカレーのお皿はどんなテーブルの上にありますか? そこはどんな部屋ですか? その部屋にはカーテンがありますか? 人はいますか? いるならそれは誰ですか?

 今頭に浮かんできたお皿やテーブルは、全て皆さんの記憶の中から探し出してきたものです。でもそれは必ずしも同じ時に記憶したものではないと思います。

 ここにお集まりの皆さんは、確かに私のほうを見ています。でも実は「観て」いないんですよ。

 だから家に帰って「今日の講演はどうだった?」と聞かれたら、みんな違うことを言います。「話はよく分からなかったけど、坊さんの後ろにある花がきれいだった」とか「あの坊さん、頭がずいぶん光ってた。どうやって剃ってるんだろう」とか。

 つまり皆さん、自分が聞きたいことだけを聞いて、見たいものだけを見ているんです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 丸暗記は、「好きなことを記憶する」というのとはちょっと違います。好きな本や言葉を記憶しているのは「私」なので、その「私」が変わると記憶自体も変質してしまうんですね。

 たとえばこんな話があります。

 昔、初恋の相手を探してスタジオまで連れてきてくれるテレビ番組がありました。

 ある役者さんが、「林間学校で行った宿屋の娘さんが好きだった。もう一度あの子に会いたい」と頼みました。

 司会の方が「その時の思い出を聞かせてください」と質問すると、その役者さんはこう話しました。

 「山に行ったら、大雨が降って皆とはぐれ、迷子になってしまった。心細くて困っていたら、宿屋の娘さんが傘を差して迎えに来てくれた。そして並んで帰りました」

 やがて宿屋の娘さんが登場しました。一緒に林間学校に行った同級生2人も来てくれました。

 司会者が「いや~、大変な雨だったそうですね」と言うと、同級生の1人が「いや、雨は降っていませんでしたよ」と言いました。もう1人の同級生も「確かに雨は降っていなかったです」と言うんですね。

 そして宿屋の娘さんはこう言いました。

 「雨なんか降っていませんし、私は迎えにも行ってません。なかなか戻ってこない人がいたので、夕方玄関に立っていただけです」

 その役者さんの記憶はいつの間にか変わっていたんですね。人の記憶というのはこんなものなんですよ(笑)。

 記憶力がいい人ほどその記憶の内容が変わりやすいです。記憶というのは、何度も思い出しては記憶し直します。その回数が多ければ記憶が変質する可能性も高くなるんですね。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 うちの父は脳梗塞になり、言語障がいが出てお経が読めなくなったことがありました。

 でも退院し、毎日の習慣で朝本堂に行って木魚を叩いていました。するとそのうちに自然に口からお経が出てくるようになったんです。

 一旦出てくると、それが突破口になったようで、やがて普通にしゃべれるようになりました。

 好きなものを選んで覚える記憶とは違い、この丸暗記というものは「ずっと変わらない」不思議な力を持っています。私は、これは「心の力」だと思っています。

 ぜひ皆さんも何かを丸暗記することに挑戦してみてください。

(2007年1月15日号より)


★このコーナーは過去26年のバックナンバーの中から選りすぐりの記事に加筆し、読み切りで転載しています。

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