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転載・過去・未来 2732号(2018/03/05)
その64 お米は日本の文化~日本最古の農業を続けている一族~

放送作家 永六輔
 世界貿易の自由化を促進するためのウルグアイ・ラウンド(1986年~1994年)で、日本の政治家や官僚たちが「日本の米はただの食糧じゃない。文化だ」と発言しました。でも、「なぜ文化なのか」ということを誰も説明していないんですね。

 今朝、皆さんは家を出てくる時にちょっとおしゃれしたと思います。粋に装っています。この「粋」という字には「米」がついていますね。お化粧の「粧」にも「米」がついています。「米」というのは食べるだけじゃなくておしゃれにも関わっているんです。

 お米を精米すると糠(ぬか)が残ります。昔、肌を美しくしたのは糠でした。さらに江戸時代までは「加賀百万石」といったように、「米」はお金の代わりでした。

 つまりお米というのは日本人にとって食糧だけじゃなかったんです。そういう関わり合いをたくさん持ってきたわけなんです。

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 もっと言えば、東京では日本で一番古い農家が今もきちんと農業をやっています。千代田区一丁目一番地にありまして、周囲はお堀で囲まれています。

 この農家は耕運機とか稲刈り機を使いません。ちゃんとひとつずつ手で苗を植えています。秋になると手で稲を刈っています。奥様は蚕を飼っています。典型的な日本の農家です。その農家を我々は「日本の象徴」としてみんなで認めているんですよ。

 日本の象徴であるそのご一族(天皇家)は日本最古の稲作農家で、一番古い形で農業を続けている。そして日本ではこの間までお米が流通の単位だった。そして女性はお化粧をして、粋に装っていた。

 日本人は長い歴史の中で「米」と、そういう関わりをしてきたことを国際的な舞台で堂々と主張してほしいんですね。

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 ご飯をお茶碗に入れることを「ご飯をよそう」と言うでしょ。あれは正しく書くと「ご飯を装う」なんです。お茶碗にご飯を美しく装うわけですから、しゃもじでしごいちゃいけないんです。そこにも「米」が関わっています。

 しかし、これだけのことを外国の政治家に「日本人にとってお米は文化です。なぜならこういう文化があります」と説明した人は1人もいませんでした。

 ぼくだってこういうことを昔から知っていたわけじゃありません。全部お年寄りから聞いたことです。お年寄りはたくさんの知恵を持っています。それは見事な知恵です。そりゃ、若い人たちの知識には敵いませんよ。今世界がどうなっているとか、Jリーグがどうしたとか、インターネットがなんだかんだとか、そんなのお年寄りには分かりません。

 だからといって「お年寄りはダメだな」とは思ってほしくないんです。私たちはそういう知恵や日本人の基礎になるものをお年寄りからもっと学んでいく必要があるんです。

 今、「ごちそうさま」と言う子が減っているそうです。そういうことに対してお年寄りはもっと言うべきです。昔の家庭の中にあった文化を次の世代に伝えなければならない責任がお年寄りにはあると思います。

 お年寄りの皆さん、「最近の若いもんはなっとらん」とぼやいたり、「私、ボケちゃおう。そしたら嫁が苦労する。ざまぁみろ」なんてことを考えている暇があったら、子どもたちに何をしてあげられるか考えてください。子どもたちに伝えるべきことはたくさんあるはずです。 

(1995年7月3日号より)


★このコーナーは過去27年のバックナンバーの中から選りすぐりの記事に加筆し、読み切りで転載しています。

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