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転載・過去・未来 2749号(2018/07/09)
上杉鷹山の経営改革~心の空き部屋に座右の銘を~

作家 童門冬二
 上杉鷹山は高鍋(現・宮崎県高鍋町)藩主・秋月家の次男でしたが、縁あって上杉家の養子になりました。上杉家は現在の山形県米沢市の藩主で、財政は非常に逼迫した状態でした。

 そんな上杉家に、年若く、土地勘もなく、家の格式も上杉家より低い、知った部下もほぼいない、そんなハンディを抱えた鷹山が乗り込み、米沢藩再建を決意します。

 2500年前、中国の思想家・孟子が「忍びざるの心」と言いました。「相手の立場に立って物事を考える優しさや思いやり」ということです。

 孟子はまた「恒産なければ恒心なし」とも言いました。「恒産」とは、ある程度の収入と財産のこと。つまり、「今日の生活もままならない」と思い悩んでいるような人には他人を思いやる気持ちはなかなか生まれないということです。

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 米沢の荒れ果てた田畑、活気のない領民を目の当たりにした鷹山は、環境整備を決意します。「まずこの地のインフラ、社会的基盤を整備し、民衆の恒産を高めなければ恒心は育たない」と。

 そして身近な家臣に語ります。「湿って火の移らない者、火を移すことを拒否する者と様々いることだろう。でもきっと火を待ちわびている者もいるはずだ。その者を見つけ出し、一人でも多くの人に火を移してほしい。改革は私一人ではできない。皆の力を私に貸してほしい」と。

 その後鷹山は、倹約を奨め、米沢の風土や特性を生かした産業振興策を実行し、恒産を生み出していきました。

 改革を進める上で最も大切なのは、上に立つ者が下の者が持つ疑問に対して的確に答え、その気を起こさせるということです。

 情報を与え、相手が理解できる易しい言葉で説明し、説得をし、納得させていく。逆に言えば、相手に納得してもらうために情報を与え、説明し、説得するということです。

 恒心の復活を願った鷹山の経営改革はこうして見事成功し、米沢全体に大きな信頼が復活します。そしてここから、有名な米沢の「棒杭の商い」が誕生します。

 たとえ店番がいなくても、商品と値札の下がった棒杭さえ立てておけば、客はその額を払って品物を持ち帰る。後で計算しても、お金の総額に一文の狂いもないのです。米沢の民衆に恒心が戻った結果、「棒杭」に対しても嘘をつかなくなったのです。

 その後、東北地方で「天明の大飢饉」が発生しますが、米沢からは一人の餓死者も出ませんでした。そして米沢藩は時の将軍から表彰されました。

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 フランスの文化人レオン・ブロイは言っています。「心に空き部室を作ったままにしておくと、そこから腐り始め、やがて全体を倒壊させる。そうならないために、心の空き部屋に座右の銘を入れておくといい」と。

 私は、コンスタンチン・ビオルグというルーマニアの作家のこんな言葉を心に据えています。

 「たとえ世界の終末が明日であろうとも、私はここにりんごの木を植える」

 皆さんもそれぞれ、おいしい実のなる「木」を育てていらっしゃり、その美味しい果実を惜し気もなく他人に差し出せるお気持ちもお持ちのはずです。どうかいつまでもその「木」を大切にお育てくださいね。

 最後にペンネームでお詫びをして話を終わらせていただきます。今日は「どうも(童門)」すみませんでした。

(1993年9月6日号より)

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