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転載・過去・未来 2751号(2018/07/23)
その83 伝説のドアマン~「自分の土俵を作ることを考えなさい」~

作家 神渡良平
 大阪に「伝説のドアマン」と言われる人がいます。名田正敏さんという人です。

 山口県の漁村に生まれた名田さんは、家が貧しかったため進学できず、小学校を出ると大阪に出稼ぎに行きました。ようやく見つかった仕事は倉庫の番人でした。

 5年ほど働いた頃、大阪の一等地にあったその倉庫が郊外に移転することになり、跡地に関西を代表するグレードの高いホテルが建つことになりました。

 名田さんは、その倉庫で働いていたこともあってホテルで働くことになりました。しかし彼に与えられたのは、駐車場の配車係の仕事でした。

 やがて名田さんは悩みます。「周りはすごい学歴の人、ホテルマンとしてキャリアのある人ばかり。どんなに頑張っても上には上がれない」と。そして名田さんは、部長に辞表を出しに行きました。

 すると、その部長にこう言われました。

 「名田君、人と見比べて一喜一憂するんじゃなく、自分の土俵を作ることを考えなさい。『このホテルは名田正敏なしでは成り立たない』と言われるくらいになれ」と。
 名田さんは「そんなことできるわけない」と思いましたが、そのままホテル勤めを続けました。

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 駐車場の配車係がスポットライトを浴びる時間があります。それは、夜のパーティの終了後です。

 会場から出てくる参加者たちの顔を見て、配車係のチーフがマイクで「〇〇会社の〇〇常務の車、どうぞ」と呼ぶのです。マイクを握る配車係のそのチーフは、関西の著名人の顔をすべて覚えていました。

 そこで名田さんは、関西の有名企業400社のトップ10人、合計4000人の名前と顔を覚えることを決心します。そして仕事が非番の時に各会社を訪問し、見事に4000人の顔と名前を覚えていきました。

 その結果、名田さんは、ロイヤルホテルでマイク係を任されるようになったのです。

 また名田さんは、ドアマンとしてホテルの玄関の脇に立った時、到着した車に、「〇〇社長、ようこそいらっしゃいました」と名前を呼ぶようにしました。

 そして、車から降りて玄関まで歩く、わずか数十歩の間におしゃべりをするようになりました。そのことで、皆さんの心の中に名田さんの人柄が刻み込まれていきました。

 するとそのうちに、「名田さん、今度うちの息子が結婚することになった。お宅で式をやりたいから会場を予約しておいてくれないか」などと頼まれるようになりました。

 多い時でなんと4億円もの仕事が入ってきました。そして名田さんは副支配人にまでなっていくのです。

 名田さんはその後、神戸や大阪のホテルに引き抜かれ、関西地区の名高いホテルのグレードを作り上げる仕事を続けていきました。

 名田さんの定年退職の時、大阪の財界人がお別れパーティを開きました。そこに集まった財界トップの人数はなんと350人。

 それ以来、名田さんは「伝説のドアマン」と呼ばれるようになったのです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 名田さんは、私のインタビューにこうお答えになりました。

 「あの部長さんの言葉がなかったら、今の自分の人生はなかった。あの言葉で私はお客様の名前と顔を覚えるようになり、覚えると不思議なことに、お客様が私を大切にしてくださるようになった」と。

 私はお話を聴きながら、「この方は仕事を通して人格を磨いてこられたんだなぁ」と感じたのです。

(2001年3月19日号より)

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