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転載・過去・未来 2763号(2018/10/22)
その93 まず楽しむことから~強いチームには笑い声がある~

元女子マラソン選手/スポーツライター 増田明美
 私が宮崎にある旭化成陸上部の合宿に参加したのは、高校卒業してすぐでした。当時の監督は広島日出国さんでした。

 高校時代の私たち陸上部は、夏でもウィンドブレーカーを着て、フードを頭から被って走っていました。フードを被ると視界が狭くなりますから、集中して走れるんです。

 とてもきれいな青島の海岸を背に走ったのですが、どんな景色があっても私が見るのはストップウォッチだけでした。

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 ある日、後に私と一緒にロス五輪のマラソンに出場することになる双子の宗兄弟の、どちらかの宗さんから、「おまえと一緒に走ると、走るのがつまらなくなってくる。あんまりカサカサ音を立てないでくれ。5000メートルとか1万メートルを走る時は集中することが大事だけど、マラソンはいかに自分の気持ちを楽しませるかが大事なんだ」と言われました。

 それまで私は全く逆の考え方をしていたので、すごくショックでした。

 実際、旭化成の選手はみんなカラフルなウェアーで、こんなにチャラチャラしてていいのかなと思うくらい、楽しみながら走っているんですよ。そして40キロ、50キロ、60キロ、平気で走っちゃうんです。

 「あぁ、この人たちは走ることを楽しんでいる。だから走れるんだ」と思いました。

 この「楽しみながら走る」ということを、私が自分のこととして感じられるようになるのは、それから何年も後になってからでした。

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 旭化成はやっぱり指導者が素晴らしいです。

 たとえば宗さんは「この選手にはどういう言葉を掛けたら頑張れるか」ということを知っていて、選手によって掛ける言葉が違っているんですね。

 宗さんは男子の選手を育てるのがすごく上手ですが、女子の選手を育てるのがうまいのは有森裕子さんや高橋尚子さんを育てた小出義雄監督です。見た目はただのダメ親父って感じですけどね(笑)。

 私が取材に行って、「監督、鈴木博美選手の調子はどうですか?」と聞くと、「博美? 最高だよ」って言うし、「高橋選手は?」と聞くと、「Qちゃん? もう絶好調!うちの選手はすごいよ。だから監督は楽だ。酒だけ飲んでればいいんだ。選手はみんな勝手にやるから」と、こんな感じです。

 だけど小出監督は選手一人ひとりの個性をよく見抜いていて、宗さんと同じで、どういう言葉を掛けたら頑張るか、どう接したらやる気になるか、よく知っているんです。

 小出監督が私にこうおっしゃったことがあります。

 「明美さんよ、あんた、駅伝チームを取材しているけど、強いチームというのは、近くに行ってみると分かるけど、笑い声が聞こえてくるぞ。雰囲気が明るいチームは間違いなく結果を出すよ」

 「あんたの時代には汗と涙でオリンピックに行ったんだろうけど、今は違うよ。何が一番大事かというと、笑いだよ」

 確かに高橋尚子さんがいる積水化学女子陸上部には絶えず笑いがあるんです。だけど、練習の質は私の頃と比べるとはるかに高い。

 だからこそ力んでやるのではなく、明るい雰囲気づくりを大事にしているんだと思います。

(1999年9月27日号より)


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