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転載・過去・未来 2767号(2018/11/26)
丸ごと信じ、抱きしめる~「手を握り、黙ってそいつのそばにいてやれ」~

女優 萩生田千津子
 私は演劇がしたくて演劇部の活動の盛んな高校に進みました。朝から晩まで演劇三昧で、授業中に小説を読んでは先生に没収され、パンフレットや台本を読んでは没収される毎日でした。

 ある時担任の先生に呼ばれました。「かなり怒られるんだろうな」と思って行くと、「おまえはいったい何しに学校に来てるんだ?」と言われました。

 勉強しに来てる気はさらさらなかったので、大きな声で「芝居しに来てます!」と言いました。

 すると先生はにっこり微笑んで、「目的があるならそれでいい。ただし、授業中に教科書以外のものは読むなよ」と言い、没収した本を返してくれました。

 よく見ると、ほかの先生から没収された本までありました。

 「先生はきっと、ほかの先生にも頭を下げて謝って回り、本を集めてくれたんだな」と気づきました。なのに先生は、一言も私を怒ったり、「勉強しろ」とは言わなかった。
 その時、思いきりビンタされたくらいの衝撃を受けました。

 「なんてことをしてしまったんだろう。先生、ごめんなさい。私はもう先生を裏切りません」

 私は心から反省し、泣きました。高校1年生の2学期の初めの出来事でした。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その日から、私は死に物狂いで勉強するようになりました。そのほかにもこの先生からは、いろんな人生観や忘れられない言葉を教えていただきました。

 「『無二の親友』と呼べるのは生涯を通じて1人できるかできないかだ。だから、その『もう1人の自分』が苦しんでいる時は、そいつの手をギュッと握り、黙ってそばにいてやれ。喜んでいる時は心から一緒に喜んでやれ」

 「人を嫉妬するのは自分に自信がない証拠だ。意地悪やいじめをするのは自分の弱さだ。誰かを悪者にして自分を正当化するような弱い人間にはなるな」

 高校を卒業した私は、女優を目指して劇団「文学座」を受験しました。その時に私の背中を押してくれたのはその先生だけでした。

 「夢は捨てるな。希望を持て。これまでの自分を精一杯活かして生きろ」。先生の励ましの言葉を胸に、私は文学座に合格し、女優の道を歩き始めました。

 再びその「夢は捨てるな。希望を持て」の言葉を思い出したのは、82年の8月に交通事故に遭って車いす生活になった時です。

 「女優として私はもうダメだ」とあきらめかけていた時、作家の水上勉先生がおっしゃいました。

 「夢は捨てるな、希望を持て。失ったものを考えるな。残されたものを活かせ。おまえさんには声が残っておるやないか。『語り』をやれ」。

 この先生の言葉で、私の「語り芝居」はスタートしたのです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 チャンスというのはきっと、いつも目の前に、手の届くところにあるのだと思います。あとはそれを、どう自分が掴んでいくか。

 掴んだチャンスの積み重ねが夢の実現につながります。そのことを、二人の先生との出会いから教えられました。

 私にとって「生きる」ことは「諦めないこと」です。私は肩から下の体の感覚を失い、おしっこもうんちも分かりません。

 おしっこだらけになるのも私、うんちまみれになるのも私自身の姿です。それを正面から受け止めながら、私はこれからも生きていきます。

(2000年4月17日号より)


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