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転載・過去・未来 2768号(2018/12/03)
その98 老後とは何ぞや~ぬいぐるみと入所するおばあちゃん~

熊本県社会福祉法人慈愛園「子供ホーム」園長(当時) 潮谷愛一
 私どもの老人ホームで、昔はなかったのに最近起こっている問題、それもとても不思議な問題があります。それは「老人ホームにぬいぐるみを持って入る方が増えた」ということです。

 あるおばあちゃんがトラのぬいぐるみを持って入所してきた時のことです。

 その同じ部屋に寅年生まれのおばあちゃんがいて、そのおばあちゃんがぬいぐるみを見て、「そのトラばくれ」と言うんです。

 すると入所してきたおばあちゃんが「いや、やらん」と言う。

 その後しばらく、「くれ」と「やらん」のやり取りが続きました。お二人とも認知症です。

 職員が「なぜ欲しいのか」をおばあちゃんに聞いたところ、「私は寅年生まれだからトラは全部私のもの」と言い張りました。そうして二人のケンカは毎日続きました。

 職員会議を開きました。テーマは「トラについて」。どうすればあのおばあちゃんを諦めさせられるか話し合いました。

 出た結論は、「似たトラを買ってきてあげよう」でした。そこでさっそく、似たトラのぬいぐるみをおばあちゃんに買ってきました。

 すると、それを見たおばあちゃん、何と言ったか。「こりゃ好かん、あっちがよか」
 そこで再度「トラ会議」です。

 「言うても分からんなら、もう別室に移すしかない」ということで、ようやく問題が落ち着きました。

 皆さんも、老後にどのぬいぐるみと遊ぶか、頭がしっかりしているうちに決めておいてくださいね(笑)。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 老人ホームで起こっている問題の二つ目、それは「徘徊」です。 これは山に入りこんでしまって亡くなられる場合もありますので、大きな問題です。

 あるおばあちゃんが施設を出ていきました。ある人がそれらしい人を見つけたので名前を聞くと、施設が探しているおばあちゃんの名前とは違っていました。

 職員が連絡を受け、気になったので行ってみると、探していたそのおばあちゃんでした。

 こういうことが実は何度も起きています。理由は簡単です。名前を聞かれたおばあちゃんが旧姓で答えるのです。つまり、思いの中では娘時代に戻っているんですね。

 年を取ると、自分の思い通りにならないことが増えていきます。誰もがそうです。その時、衰えた自分が嫌で、その嫌な状況から逃げ出したくなりますよね。

 「何で私はこんな夫と結婚したんだろう」とか「何で私はこの家に嫁に来たんだろう」とか、嫌な感情ばかり抱えて悔やんでいると、それが認知症に影響してくる気がします。

 お年寄りが徘徊し、3時間、4時間経って見つかった時、「その人が生まれた故郷にいた」ということもよくあります。

 これも、「あの時代はよかった」という、昔を思慕する思いが影響しているのではないかと思うんです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 「ぬいぐるみ」「旧姓」「生まれ故郷」の三つに共通していること、それは幼児期の体験です。老後になって、幼児期の体験が飛び出してくるのです。

 このように施設のお年寄りの問題を通して、私たちは幼児期の大切さも感じているんですね。

(2000年5月1日号より)


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