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転載・過去・未来 2777号(2019/02/18)
その103 心を取り戻す~「この島のものは、みんなのものだ」~

シンガーソングライター 梅原司平
 ある若い小学校の先生が、自分の望む教育が上手くいかなくて、とうとう心を壊し教壇を去ってしまいました。

 壊れた心を取り戻すため、彼は沖縄の旅に出ます。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 沖縄の本島から離れた慶良間諸島の一つの小さな島にたどり着きました。

 若者は、誰も身寄りのないその島で、太陽と白い砂浜と青い海を眺めながら何日も過ごしました。

 ある夕暮れ、島を散歩していると、見ず知らずのおばあさんが若者に近づいてきました。

 おばあさんは、「見かけない人だな。どこの人だろう?」と思ったのでしょう、若者と目が合うなり言いました。 

 「あんた、今晩食うものはあるんか?」

 若者は、「今晩のことはまだ何も考えていません」と言いました。

 するとおばあさんは、「そうか、なら、これ持ってけ」と、すぐ側の畑に入ってたくさんの野菜を引き抜きました。

 「ここはおばあちゃんの畑だったんですね。助かります。ありがとうございます」とお礼を言うと、おばあさんは、「いや、うちの畑じゃねぇ」と言いました。

 「え?…そんな人の畑の物をいただくわけにはいきません」と言うと、おばあさんは言いました。

 「心配せんでいい。この島のものは、みんなのものだ。うちの畑からも、今頃誰かが何かを持っていってるさ」

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 こんな優しい人たちに出会っていくうち、若者は心を取り戻していきました。

 若者はその後、小説家を志します。この若者とは、作家の灰谷健次郎さん(故人)です。

 僕は先日、灰谷さんと『講演と音楽の夕べ』で共演させてもらいました。灰谷さんは「知と情。知識と心」というテーマで話をされました。

 沖縄で出合った、学校の教科書にはない、島の人たちの「教科書」のお話でした。
 その「教科書」には、大切な三つの約束がありました。

 「海から何かを獲ると、元に戻るまで長い時間が掛かる。だから、同じ所から同じものを何度も獲らないようにしよう」。これが一つ目の約束です。

 二つ目の約束、それは昔戦争があった時の話です。

 日本の敗戦が濃厚になり、沖縄にもアメリカ兵が上陸してくる状況が迫ってきました。

 そうなると女の子は何をされるか分かりません。「辱しめを受ける前に自分で死のう」。そんな時代がありました。

 「そんな悲劇が二度と起きないようにしよう」というのが二つ目の約束です。

 三つ目の約束、それは「障がい者の子は神様の子ども」です。

 健常者はつい思い上がって突っ走りがちです。でもそんな時に、障がい者の子どもたちが一緒にいると、いろんなことを教えられます。

 「足元をご覧よ。ほら、季節の変わり目だからたんぽぽが咲いてるよ」

 「夏になったんだね、セミが鳴いてる。空には入道雲も見える」

 ややもすると、そういう大事なことが見えなくなってしまうのです。そんな時、「もっとゆっくり歩こうよ」と教えてくれるのが障がい者の子どもたち。だから「神様の子ども」なんです。

 沖縄の慶良間諸島の人たちが育てたこの「教科書」に、私たちもぜひ学びたいものです。

 (2003年10月13日号より)


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