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転載・過去・未来 2779号(2019/03/04)
その105 妻と死んでいく風景~木と相談して決めたこと~

タレント・俳優 柳生博
 我が家は、柳生十兵衛とか柳生但馬守がご先祖様に当たるんですが、「13歳になったら旅に出よ」という家訓があります。

 そしてもう一つ、「自分の木を持ちなさい」という教えもあります。

 それで、僕は13歳の中学2年生の時、数万円のお金を持って否応なく旅に出されました。最初に行ったのが、僕が今住んでいる八ヶ岳です。

 野宿をしながら1か月間過ごし、「木と話そう」「木に相談しよう」と努力しました。
 どうやるかというと「抱っこ」です。でも、木を一生懸命抱きしめても、なかなか答えは返ってきませんでした。

 生き物たちに興奮し、感動し、時に寂しくて泣く毎日でした。そんな中、ようやく会得しました。

 それが、かかととお尻と背中と後頭部と手を木にペタッとくっつける「抱っこ」です。
 そうすると、日頃使っている脳ではなく、先祖からずっと受け継いできた「生き物としての脳」が動き出すんです。

 「ドキドキする」「ワクワクする」「切ない」とか、そういう自分が自分でない感覚ってありますよね。そういう生き物としての本来の脳が働きだすことで、木とおしゃべりできるようになったのだと思います。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 僕は、大事なことはすべて木に相談しながらこれまでの人生を生きてきました。
 その中でも一番大事だったのは結婚の相談です。つまり今のかみさんとのことです(笑)。

 東京にいるとどうしても、A子ちゃんとかB子ちゃんとかC子ちゃんが頭に浮かび、それを比較したり分析したり、マーケティングリサーチしたりして、ついつい余計なことまで考えてしまいがちです。

 でも木に相談すると違います。

 「俺、こいつのあの匂いが好きなんだよ」と、ありのままの自分が言葉を発し、「へぇ、そうかね」と木が応えてくれる。

 「人目がなければいつも抱き合っていたいんだよ」「おぉ、そうかね」。「一瞬一瞬をこいつと一緒に生きたいんだ」「あぁ、そうかね」。「だから結婚したいんだ。いいかい?」「いいだろう」

 そんな会話をするんです。分かるかなぁ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ある番組に夫婦で出演した時、司会の方から「奥さんはどんなふうに柳生さんに口説かれたの?」と聞かれました。

 するとかみさんが話しました。「『君とこういうふうにして死んでいきたい。一緒に死んでくれ』と言ったんですよ」と。

 でも、これは僕の最高の愛の言葉なんです。

 「君と手をつないで、一瞬一瞬、毎日毎日、同じ空気を吸い、同じ匂いをかいで、同じものに喜び、感動し、涙し、満ち満ちた時を過ごし、いろんな木や動物に囲まれて、そういう中でおまえさんと死にたいんだ」と言ったんです。

 八ヶ岳にずっと住んで何をしてきたか。それは「かみさんと死んでいく風景をつくる」ということでした。

 その気持ちで、これまでずっと八ヶ岳に木を植えてきました。この間息子と数えたら、1万本以上になっていました。

 今僕の家には世界からいろんな人たちが集まってきます。

 そして、生き物の話を、一晩も二晩も、時には一週間も十日間も話し合っています。

 (1998年5月11日号より)


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