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転載・過去・未来 2784号(2019/04/08)
その110 日本語の「心」~「うなぎはどちら様ですか?」~

言語学者 金田一春彦(故人)
 ある時、上智大学時代の教え子が中国人の友人を連れてやってきました。

 私がその教え子に、「君は結婚したのか?」と聞くと、彼は「えぇ、一応…」と答えました。

 すると、その中国人は、「『一応』とはどういう意味ですか?」と不思議そうな顔で言いました。これ、説明するの難しいですよ。

 「本来ならば、多くの方をお招きして立派な結婚式を挙げるはずでした。でも、私たちは豊かでなく、ごく質素な結婚式しか挙げられませんでした。ですから先生を結婚式にご招待できませんでした。申し訳ございません」

 教え子のその「一応」には、こういう意味が含まれているわけです。

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 それから、食堂でお給仕の人に「何になさいますか?」と聞かれて、「俺はうなぎだ」なんて言う場面もありますね。

 で、それを聞いたお給仕の人も、「かしこまりました」と言って、うなぎのお重を作って持ってくる。

 そして「うなぎはどちら様ですか?」と聞いてきます。これも外国の人は驚きますよ。
 皆さんも家庭で言いませんか、「お湯を沸かす」って。でもあれ、沸かしているのは水ですよね。「飯を炊く」も、炊くのは米です。

 野球中継にもおかしい表現が出てきますよ。「イチロー、ホームランを打ちました」
 イチロー選手が打つのはピッチャーが投げた球ですよね。

 日本人はこのように、理屈には合わないけれども意味が分かるように簡潔にした言葉をたくさん話すんですね。

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 西郷隆盛の末の弟で西郷従道という人が、明治の末頃、海軍大臣になりました。彼がアメリカに渡り大歓迎を受け、盛大なパーティーが催されました。

 そこで彼はスピーチを求められます。しかし、晴れがましい場で話した経験がない従道は、脇にいた通訳に「どうしゃべったらいいか分からん。よかごつやってくれ」と言って座ってしまいます。

 困った通訳は、思いつくままに、「今日は私のためにこのような立派な会を開いていただいてありがとうございました。まことに感激にたえません…」と適当に3分近くしゃべりました。

 それを聞いたアメリカ人たちは、「日本語というのは短い言葉でも、英語に直すとあんなに長くしゃべったことになるのか。なんて神秘的な言語なんだ」と感激したそうです。

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 日本人は言葉について、「しゃべるのは短いほうがいい」とか「弁解はしない」という考えを持っています。でも例外があるんです。それが結婚披露宴のあいさつです。

 たとえば、新婦の父親と子どもの時から無二の親友であったり、社会である程度の地位を得た方にあいさつを頼んだりしますよね。

 するとその方は、新婦の父親と自分との友情関係を延々と話し始めます。いつ新婦の話が出てくるか分からないほどです。

 数十分過ぎてもなかなか話は終わらなくて、やっと話が終わった時、その人は何と言うか。

 「以上、はなはだ簡単ではございますが…」と。

 つまり、このような結婚式のあいさつは、短くてはいけないし、行き届かせなければいけないと思っているわけです。おもしろいですねぇ。

(1998年3月2日号より)


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