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転載・過去・未来 2796号(2019/07/08)
その122 べてるの家~だから「いい医者」はやめました~

精神科医 川村敏明
 「べてるの家」は、1984年に設立された北海道浦河(うらかわ)町にある精神障がい等をかかえた当事者の地域活動拠点です。

 福祉分野に貢献した団体として天皇・皇后両陛下から賞をもらうことになり、2003年10月、私たちは東京に行きました。

 個人から団体までたくさんの人が賞を受けるとのことで、私たちは一番端っこに並びました。

 受賞する人たちは年配の人が多いので、少しでも目立つように清水里香という若い女の子にも入ってもらいました。

 彼女は統合失調症の障がいを持っていますが、質問にはさっと返事ができる子でした。
 両陛下はすぐに清水さんに気づかれて、「若いのに頑張っていらっしゃるのですね」と声をかけてくださいました。

 清水さんは、すぐに「はい、病気をしたことで充実して過ごさせていただいております」と元気よくあいさつしました。両陛下は少し驚かれたようでした。

 どこの精神科病棟にも、「私は皇室の血筋です」とか「私は天皇陛下です」と言う人がいます。入院歴のある人が「皇居に行って天皇陛下とお話をしてきました」と言っても、普通は妄想で、誰も信じません。でもこの「べてるの家」では、ウソでも妄想でもなく、それが現実になったわけです。

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 「べてるの家」には、大学院で機械工学を専攻したメンバーもいます。

 その彼が国連に呼ばれ、約250人を前に自分の病気のことや「べてるの家」のことを英語で発表しました。

 浦河町には「ホクレン」というスーパーがあるんです。最初「国連で発表する」という話を聞いた時、みんな「そうか、ホクレンも我々のことを理解して発表の場を設けてくれたんだな」と喜んでいたんです。「ホクレンなら歩いて聴きに行けるね」と。

 ところが、だんだん、「あの発表は、実はホクレンじゃなく国連らしいよ」とか「国連ってどこ?」とか「歩いては行けないとこらしいよ」と…。そんなふうに私たちは、笑わされたり驚かされたりしながら過ごしています。

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 毎年一回開催される「べてる祭り」には、全国から数百人の参加者が集まります。

 でも浦河町にそんな人数を収容できる宿泊施設はないので、近隣の町のホテルまで貸し切り状態になるのです。

 そんな様子を見ながら私は、「べてるの繁栄が地域の繁栄」という夢が実現していくのを感じています。

 これまでの精神障がい者は、「自分のことを語る」ことをしませんでした。昔の当事者は、健常者のように見られることが目標で、そのためにずっと口を閉じていたのです。話すと自分が精神障がい者であることがバレるからです。

 そんな時代からすると、「べてるの家」の人たちは精神医療の世界に革命を起こしたと私は思います。

 だけど、障がいを持つ彼らの話にまともに付き合うのはとても大変ですし、疲れます。ですから、私は「いい医者であること」をやめることにしました。

 私の電話番号を「べてるの家」のメンバーはみんな知っていて、みんな好きな時間に掛けてきます。でもいいのです。私は「いい医者」ではなく、一友人として彼らとの付き合いをただ楽しめばいいだけなのですから。

(2008年6月9日号より)


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