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転載・過去・未来 2797号(2019/07/15)
おやじの唄~ケチなおやじがくれた二つの宝物~

落語家 桂小金治(故人)
 僕が10歳になった時、おやじに呼ばれ、言われました。

 「いつまでも親に食わしてもらって生きていけると思ったら大間違いだぞ。自分の力で生きていかなきゃならない時が来る。その支度と思って店を手伝って仕事を覚えなさい」
 我が家は魚屋をやっていました。僕は坊主頭に鉢巻きを締めて店の手伝いをしながら、商売の難しさ、厳しさ、楽しさを少しずつ覚えていきました。

 たまには褒美の一つくらい買ってくれてもいいと思うのに、おやじはいつも「欲しいものがあったら自分で作れ」と言いました。

 でも、作れないものだってあります。たとえばハーモニカ。

 「父ちゃん、ハーモニカ買ってよ」「何で?」「良い音がするんだ」「良い音ならこれで出せ」。そう言っておやじは、神棚のさかきの葉っぱを取って吹いて見せてくれました。

 そして言いました。「悔しかったら吹けるようになってみろ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 それから毎日、学校の行き帰りに垣根の葉っぱをむしって吹きました。でも、ずっと鳴らないので三日でやめてしまいました。

 おやじが言いました。「草笛鳴るようになったか?」

 「鳴らねぇからやめた」と僕が答えると、おやじは怒って言いました。

 「何でやめるんだ。俺は吹けるのにおまえは吹けない。おまえは負けたってことだ。負けたら悔しがれ。悔しかったらやってみろ。やるからには続けろ。続けて初めて答えが出るんだ」

 悔しかったので、また吹くようになりました。

 ある日、ピーと音が鳴りました。そのうちメロディを吹けるようになりました。

 僕は自慢げに家に帰り、「父ちゃん、草笛吹けるようになったよ」と言いました。

 おやじは、「おい、偉そうな顔するな。できるようになったことを自分一人の手柄と思うな。世間の皆様のお力添えと感謝しろ。自分一人でできることなどない。『片手でキリはもめぬ』というだろう」

 昔の人はいい言葉知ってますね。両方の手が協力して初めて一つの役立ちができるということです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 次の朝、目を覚ますと枕元に新聞紙に包んだ細長いものが置いてありました。開けてびっくりしました。ハーモニカでした。

 あの時の感激は忘れられません。欲しがっていたハーモニカを、あのケチなおやじが買ってくれたんですから。

 僕はハーモニカを胸に抱きしめ、おやじのところに飛んでいきました。

 「父ちゃん、ハーモニカ買ってくれたの?」と言うと、おやじは言いました。

 「努力の上の辛抱を立てたんだ。花咲くのは当たりめぇだろ」

 昔の親は、わが子にハーモニカ一つ買うにしても、こんなに心を砕いてくれたんですね。

 『荒城の月』を吹くと、おやじは何を思い出すのか目にいっぱい涙を溜(た)め、僕のハーモニカをじっと聴いてくれました。

 今でもハーモニカを吹くたび、僕は死んだおやじを思い出します。

 厳しかったあのおやじのおかげで、「草笛を吹ける」という楽しみと「ハーモニカが吹ける」という喜びを、人生の友として僕は得ることができたのです。

 今でもありがたいことだと、おやじに感謝しています。

(1999年12月13日号より)


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