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転載・過去・未来 2802号(2019/08/26)
その128 野口雨情と「しゃぼん玉」~「お父さんは人生を諦めない」~

作家 神渡良平
 野口雨情(うじょう)という詩人がいます。彼は現在の早稲田大学、昔の東京専門学校にいた頃から詩を書いていました。詩人仲間が次々に頭角(とうかく)を現す中、雨情だけはさっぱり芽が出ませんでした。

 とうとう彼は詩人になることを諦め、樺太に渡り商売を始めます。ところが商売も思うようにいかず、北海道に帰ってきて小樽の小さな新聞社に入社しました。でも、ここでも社長と折り合いがうまくいかなくて、すったもんだが続きます。

 そんな時、雨情に最初のお嬢さんが産まれます。彼はその子に「みどり」と名前をつけました。

 彼は、みどりちゃんを目に入れても痛くないほど可愛がりました。でもみどりちゃんはわずか生後7日間で天に召されてしまいます。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 雨情は失意のどん底で会社を辞めます。

 札幌の新しい会社で再出発を試みますが、仕事が手につかずまた辞めてしまいます。次に就職した会社でも同じでした。

 道が開けず苦しみ、どん底を味わい、人生を投げ出すような気持ちで、雨情は生まれ故郷の茨城県磯原町(現・北茨城市)に帰ってきたのでした。

 そして、酒に浸る毎日の中で書いたのが『船頭小唄』という皆さんご承知の詩でした。

 おれは川原の枯れすすき
 同じおまえも枯れすすき
 どうせふたりはこの世では
 花の咲かない枯れすすき


 自分のことを「花の咲かない枯れすすき」のようだと歌ったのです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ある日、雨情の夢の中に亡くなった娘さんが現れます。

 娘さんは目にいっぱい涙を浮かべ、自分を見下ろしているように見えました。

 その涙に雨情の心が動かされ、そして気が付きました。

 「おまえが死んでから父さんはつらかった。何をやってもうまくいかず、毎日が苦しかった。でもおまえの泣き顔を見た時、父さんは気付いた」

 「おまえはわずか1週間しか生きられず、人生に挑戦することすら許されなかった。それに比べて今の俺はどうだ。こんな五体満足な体をいただいていながら…」

 「このまま死んだら俺は娘に合わせる顔がない。俺はこれから、娘の代わりに娘がやりたかったことをやろう」

 雨情はそこから立ち直り、その後、多くの童謡を書きました。

 異国の地にもらわれていった女の子のことを歌った『赤いくつ』。カラスの愛を歌った『七つの子』

 娘さんが亡くなった14年後に発表したのが『しゃぼん玉』です。二番でこんな歌詞が出てきます。

 しゃぼん玉消えた
 飛ばずに消えた
 生まれてすぐに
 こわれて消えた
 風 風 吹くな
 しゃぼん玉飛ばそ


 私はこの詩を読んだ時、「しゃぼん玉を飛ばして遊んでいる子どもたちの幸せな光景を歌っただけではないのでは」と思いました。

 「みどり、お父さんは人生を諦めない。もう1回しゃぼん玉を飛ばすからね」

 そんな雨情の決意のこもったメッセージだと感じたのです。

 こうして雨情は、日本の童謡界を背負って立つ、北原白秋、西条八十(さいじょう・やそ)とともに「童謡界の三大詩人」と並び称されるほどの人物になっていきました。

(2011年3月26日号より)


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