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転載・過去・未来 2804号(2019/09/09)
その130 ジョージ・フォアマン~なぜ42歳で世界戦に挑んだのか?~

ノンフィクション作家 長田渚佐
 私には26歳の時から付き合い、結婚の約束までしていた人がいました。私が30歳の時、その人はリンパがんで亡くなりました。

 その頃、私はニュース番組のスポーツキャスターでしたが、お通夜の日もお葬式の日も番組を担当しました。「仕事をやっていないと心が持たない」と思ったからです。

 3年後、また好きな人ができてお付き合いが始まりました。

 秋になって「来年あたり入籍しようか」という話になりました。

 でもそんなある日、夜中に突然彼から電話が来て、「もう会えないかも」と言われました。

 3日後、スポーツ新聞に「結婚、入籍」と彼の記事が出ました。

 それからは心が修羅のようでした。「どうやってあいつに復讐してやろう」と考える日々でした。

 人が信じられなくなり、お酒の量も増えました。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 それから2年経ち、私が35歳の時、「引退後10年で現役復帰したボクシングのジョージ・フォアマン選手が、42歳でヘビー級タイトルマッチに挑戦」とのニュースを目にしました。

 当時、私はラジオやテレビ出演のほか、週に6本の連載も抱えていましたが、「何としてでも試合を観に行きたい」と思いました。

 なぜ彼は命をかけて再びあのリングに上がらなければいけないのか、その理由をどうしても知りたかったのです。

 フォアマンの相手は、まだ若い28歳のホリー・フィールド選手でした。フォアマンはアメリカ中から、「無謀だ」「どうせ金が目的だろう」と非難されました。

 この試合前、フォアマンは記者たちを前にこう言っていました。

 「オレはまだたかだか42だぜ。光は何億光年も向こうからやってきて今を照らしてるじゃないか。大事なのは今だよ。42歳という年齢に振り回されちゃいけないぜ」

 私の心は震え、思いました。

 「そうだ、大事なのは今だ」

 試合は惜しくも判定負けに終わりました。彼は試合後の記者会見で、再びリングに上がった理由についてこう語りました。

 「久しぶりに生まれ故郷のスラム街に帰ったんだ。その時、八百屋から14歳くらいの男の子がリンゴを一個盗んで走って出てきた。店主がそれを銃で撃ち、その子はその場に倒れて即死した。その姿はまさに昔のオレだった」

 貧しい黒人家庭で育った彼は7人兄弟の5番目の子で、成長期は喧嘩・飲酒・窃盗に明け暮れる不良少年でした。

 そんな彼は引退後、貧困に苦しむ子どもたちのために、ボクシングで稼いだお金をつぎ込んで孤児院を開き、伝道師もやっていました。

 彼の話を聞いているうちに私の心はふっきれました。

 「私はまだ35歳。イライラしながら生きる必要なんてない!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 帰国した私は、1か月後結婚を決めました。

 相手は、フォアマン戦を日本から観に来ていた新聞記者です。帰国してふたたび彼と会い、4か月後、入籍しました。

 私の30代は激動の時代でした。フォアマンの言葉を聞いていなかったら、私は過去に縛られて、苦しみ、あがき続けながら生きていたかもしれません。

 人生はギャンブルです。賽(さい)を投げる時は投げなきゃダメ。失敗したら、また一からやり直せばいいのです。

(1997年12月8日号より)


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