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転載・過去・未来 2809号(2019/10/21)
その135 人間らしい死に方~「心豊かに死ぬ」ということ~

上智大学名誉教授 アルフォンス・デーケン
 医療における21世紀の新しい挑戦は、肉体的な延命と同時に「いかに心豊かな時間を過ごすか」です。最期まで生活の質を高める努力をすることです。

 そのために効果的なものとして、音楽療法や読書療法、芸術療法などがあります。

 末期患者にとって「現在」はとてもつらい。死に直面し、不安でいっぱいです。しかし「過去」には誰もが幸せな日々を過ごした体験があり、それは貴重な宝物として記憶の中で生きています。

 その過去の美しい日々、幸せな体験というのは多くの場合、音楽と結び付いていることが多いのです。

 「音楽療法」は、そういう「思い出の音楽」を聴くことによって、過去の美しい日々や幸せな日々を再体験させようというものです。

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 オーストラリアのシドニーのホスピス病棟に1人の若いお母さんが入院してきました。

 彼女には4人の小さな子どもがいました。「お母さんが亡くなったらあの子たちはどうなるのだろう」と看護スタッフは思いました。

 そこで子どもたちにお母さんの趣味を聞くと、みんな一致して「歌が好きです」と言いました。

 そこで音楽療法士がお母さんのベッドの側にテープレコーダーを置き、「お子さんのために歌を録音しては?」と言いました。

 お母さんは夢中になって録音しました。子どもたちのために一生懸命に歌を歌いました。

 「初めてお父さんに会った夜、この歌を歌ったのよ」と言って情熱的な愛の歌を歌い、「初めてお父さんと行ったのはこのオペラだったの」と言ってその歌を歌いました。録音は合計8時間でした。

 亡くなる日、お母さんはベッドを取り囲み涙を流す子どもたちに言いました。

 「これは、お母さんからの最後のプレゼントよ」と。そして、「天国でまた会いましょう」と。

 そして彼女は亡くなっていきました。

 私は、患者さんが亡くなる時、いつも二つのことを知りたいのです。一つは「人間らしい死に方であったか」。もう一つは「残された家族・遺族が立ち直ることのできる死に方であったか」です。

 一つ目の「人間らしい死に方」について、このお母さんは非常に人間らしい死に方でした。最期まで子どもに対する思いやりと愛を示しながら生きました。

 二つ目の「残された家族・遺族が立ち直ることができる死に方」ですが、これは遺族や4人の子どもたちにとってすごく力づけられるものでした。

 そしてそのお母さん自身も「創造的」に生きることができました。受け身的に生きたのではなく最期まで人のために生き、「生きがいのある人生」でした。

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 自らで、あるいはボランティアの助けを借りながら本を読むというのが「読書療法」です。絵とか俳句とか詩とか、そういう言葉以外のもので表現するのが「芸術療法」です。

 死ぬ前は、「何か残したい」という願望も大きくなります。絵を描くことで、「家族のため、友だちのために遺せた」という満足感も生まれていきます。

 患者さんが創造力を発揮できる何かを提供してあげることも大事なケアの一つなのです。

 そうすれば患者さんは、「創造的に生きる」という生きがいを、人生のクライマックスで発見することができるのです。

 (2002年1月7日号より)


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