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転載・過去・未来 2814号(2019/11/25)
その140 怒らない子育て~健太君のやさしさから教えられたこと~

落語家 三笑亭夢之助
 「ラジオ日本」という放送局で10分くらいの番組を長年やっております(当時)。

 この番組宛てにリスナーさんからお手紙が届きます。その手紙を私が読み、隣に座っている大学の先生がコメントをするコーナーがあるんです。

 ある時、「鈴木健太君」という男の子のお母さんからこんな手紙をもらいました。

 健太君には、一つ違いの脳性まひのお兄ちゃんがいるんです。ですから次に生まれた子どもには、「ただ健康であってもらいたい」という願いを込めて「健太」と名付けました。

 その手紙にはこう書かれていました。

 「健太はいつも『お兄ちゃんはバカだから』と言いながらお兄ちゃんをいじめます。健太を厳しく怒ったほうがいいでしょうか」と。

 それに対し、先生はこう言いました。

 「健太君を怒らないでください。怒れば健太君はお兄ちゃんをいじめなくなるでしょう。でもそれはお母さんがいる間だけです。お母さんがいなくなれば、またお兄ちゃんをいじめます。だから怒らずにうまく言い聞かせてあげてください」

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 後日、お母さんからまた手紙が届きました。

 健太君の4歳のお誕生日の時、お友だちを4人呼んで家でパーティをしたそうです。

 お母さんはみんなにケーキを配りました。ちょうどそこにお兄ちゃんがやってきて、「怪獣だぞぉ」と言いながらケーキを全部踏んづけてしまったのです。

 健太君のお友だちはびっくりです。「何すんだよ。やめろ」と言いながら、4人でお兄ちゃんを叩き始めました。

 すると健太君は、お兄ちゃんと友だちの間にさっと入って、「ごめんなさい。お兄ちゃんをぶつならボクをぶって」と言ったのです。

 見ていたお母さんは、その日の日記の最後に、「健太、ありがとう」と言葉を添えました。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 健太君は小学校に入りました。不思議なもので、たまたま健太君の机の隣には両手の不自由な子が座りました。

 この子のお母さんというのは、何をしてあげても「あぁ、どうも」としか言わない人だったそうです。

 体育の時間になると先生が「体操着に着替えてグラウンドへ出ろ」と号令をかけます。いつも一番最後に出てくるのは健太君でした。

 あまりにも毎回続くので、先生は「今日こそは健太を怒らないとな」と思いました。

 そして先生は、ほかの児童たちを運動場に待たせ、教室に向かったのです。

 教室のドアを開けると、健太君は汗だくになりながら両手の不自由な子に体操着を着せてあげていました。

 大の大人だって両手の不自由な子に体操着を着せるのは大変です。

 健太君は、その子に何とか体操着を着せてあげた後、その子が運動場に出て行くまで見届け、それから自分が着替えを始めていたというのです。だから健太君は一番最後だったのです。

 先生は保護者会で、両手の不自由なその子のお母さんにそのことを話しました。

 先生の話が終わるとお母さんは黙って席を立ち、健太君のいる隣の教室に行きました。

 そして健太君の横にひざまずき、「健太君、ありがとう…健太君、ありがとう」と、涙を流しながら何度もお礼の言葉を言ったそうです。

(1999年1月25日号より)


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