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転載・過去・未来 2816号(2019/12/09)
その142 戦争中の噺家~「笑いを作る仕事をしているんだ」~

魂の編集長 水谷謹人
 随分前の話だが、「うちの息子が通っている山間の小学校の校長先生からこんな年賀状が来ました」と朝日新聞の読者欄に40代の主婦が投稿していた。その年賀状にはこんなことが書かれてあったそうだ。

 「おもちをたべすぎておなかをこわしましょう」

 「おとしだまをぜんぶむだづかいしましょう」

 「わがままばかりいってしかられましょう」

 都会の小学校なら保護者から抗議の電話が殺到するご時勢だが、この母親はその文章を読んで思わず笑ったという。

 きっと小さな小学校なのだろう。その主婦はこんなことも書いていた。担任の先生が子どもたちに「学校で何が一番楽しいですか?」とアンケートを取ったら、「校長先生と遊ぶこと」という回答が断トツに多かったそうだ。その校長先生の温かい人柄が垣間見える。

 笑うと頬の筋肉が緩む。すると心まで緩むから不思議である。その緩んだ心の隙間に、校長先生の大切なメッセージがじんわりと染み込んでいくのだと思う。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


 昭和の名人といわれた五代目・古今亭志ん生と六代目・三遊亭円生の若き日の一コマが舞台になり、先日テレビで放映されていた。

 戦時中、二人は旧満州の関東軍の慰問で中国に渡った。ところが敗戦となり、大連という町で置き去りにされ、さらにソ連軍が侵攻し、大連は封鎖された。

 命からがら逃げ惑いながら、放浪の末、辿り着いたのはカトリック教会のシスターたちが避難民のために炊き出しの奉仕活動をしているところだった。

 そのシスターたちにも本部から退去命令が出て、避難民を見捨て、その地を去らなければならないという苦境に立たされていた。

 そこに現れた志ん生さんと円生さん。「自分たちは噺家だ」とシスターに説明するが、全く理解されない。

 「生きることは苦しみそのものです」と言うシスターに対して、「あんたたちの教えに笑いは入っていないのかい?」と円生さんが聞いた。

 すると一人のシスターが言った。「元々笑いなんてこの世には備わっていません」
 「この世にないなら作るんだよ。俺たちは笑いを作る仕事をしているんだ」と円生さん。

 シスターは不思議な顔をして、「笑いを作り出してどうするのですか?」と聞く。

 一瞬答えに窮した二人だったが、こう答えた。

 「貧乏を楽しい貧乏に変えちゃうんだ。悲しさを素敵な悲しさに変えちゃうんだ」(円生)

 「俺なんか葬式でも洒落を言っちゃうよ。薄化粧している色っぽい後家さんを見て、『後家さんもいいもんだな。うちの女房も早いとこ後家さんにしよう』とかね」(志ん生)

 それから落語のネタを披露した。

 それまで冷静沈着だった4人のシスターが笑い転げた。いつの間にか彼女たちの心に希望と勇気が湧いてきた。

 「ここに残りましょう。最後の1人まで難民を助けましょう」と一人のシスターが言った。

 「たかがお笑い」と笑っちゃいけない。品のない笑いはいただけないが、ユーモアやジョーク、ウィットに富んだ話には人生を豊かにしたり、心を明るくする力がある。

 人生は笑ったもん勝ちである。

 (2010年1月1日号より)

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