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転載・過去・未来 2817号(2019/12/16)
その143 感情転移~「許しのハグを受け取ってほしい」

牧師/テノール歌手 うどにしつとむ
 人には大きく分けて三つの生き方があるのだそうです。

 まずは「製品的人生」。これは、たとえばフランチャイズのハンバーガーの味がどの店でも変わらないように、「みんなと同じように生きたい」というものです。

 私は牧師という職業柄、ホテルやレストランでの結婚式を依頼されます。そうすると、中には「誓いのキス」に抵抗感を示されるカップルもいます。

 そんな彼らがすぐにキスをする魔法の一言があります。「ほとんどの方がされますよ」です。「みんながやってる」は日本人を動かすキーワードのようです。

 次に「商品的人生」。これは、相手から受け入れられることに価値を置く生き方です。

 でも、すべての人に完全に好かれる人なんていません。だから「ある程度は嫌われて仕方がない」と思うことが大切です。相手の要求に応えることばかり考えていると疲れてしまいます。

 三つ目は「作品的人生」。これは「誰とも同じではない、私だけのオンリー・ワンの人生」です。

 この「作品的人生」を生きる秘訣は自己受容です。育ってきた背景や歴史、性格さえもすべて「今の私をつくるのに必要だった」と受け入れることが大切です。

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 人生には、時に自分には思い当たるふしがないのに敵意や攻撃的な感情を向けられることがありますよね。こうした「かつて誰かに対して抱いていた感情を、当事者とは別の人に向けること」を心理カウンセリングの用語で「感情転移」といいます。

 以前イスラエルの首都エルサレムで、ユダヤ文化理解のための3週間のセミナーを受講したことがあります。18か国のさまざまな民族・人種の人たちが集う楽しい研修でした。
 その会で、ある年配のアメリカ人が会衆の前に立ちました。

 「私は若い頃、兵士として南太平洋の島に行った。その島で、ある日本人兵士が民間人を銃剣で殺すのを目撃した。それ以来、私は日本人が大嫌いになり、日本人を許すことができなくなった。私は今50年ぶりに日本人を目の前にしている。そこの日本人、出てきなさい!」

 彼は私を見てそう言いました。

 「自分には身に覚えがないことなのに…」

 私は戸惑いながら、言われるがまま前に出ました。すると彼は言いました。

 「私はこれから君をハグ(抱擁)する。これは私の許しのあかしだ。君も私の許しを受け取るハグを返してくれ。これで私の心の和解は成立する」

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 「激しい恨みを持っている人は、例外なく過去に筆舌に尽くし難いつらい体験をしてきた人」と聴いたことがあります。

 半世紀もの長い間、日本人に対して「許せない」という感情に心を縛られていた彼でした。

 それを知って私は日本人として申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。

 「ごめんなさい。そして、ありがとう」

 ハグしながら私はそう言いました。そのことで気持ちが少し軽くなりました。

 感情転移の対応の仕方にはいろいろあり、必ずしも私の行動がベストではなかったのかもしれません。でもたしかに一つのことには決着がついた、そう思えた出来事でした。

 (2005年1月24日号、2月28日号より)


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