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転載・過去・未来 2838号(2020/06/01)
その158 つらい時もクスっと笑うために~寝る前に習慣にしてほしい、たった一つのこと

(財)新居浜精神衛生研究所附属豊岡台病院院長 / 日本笑い学会四国支部代表 枝廣篤昌
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 大学時代、私は落語研究会に入っていました。卒業して医者になってからは落語をやめてしまいました。気持ちの整理がつかなかったからです。だって診察室で患者さんのつらい話を聞いた後、高座で「ど~も~」なんて馬鹿々々しい話をして笑いを取るわけですから。

 この矛盾した思いをずっと解消できずにいたんです。でも、あることがきっかけで変わりました。

 ある日、「精神病患者を抱えている家族の合同研究会で講演をしていただけませんか?」という電話が掛かってきました。

 「どんな話をすればいいんですか?」と聞くと、「落語です」と言うんです。

 それで落語をやったら大ウケでした。帰り際にたくさんの人たちから、「先生、笑うと元気が出て、明日も頑張っていけそうな気になりました」と声を掛けられたのです。そこで初めて、落語をする意味や喜びを感じたのです。

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 さて、「笑い」には大きく四つの効用があります。これは社会学者の井上宏先生が「日本笑い学会」の会長時代に分類していました。

 一つ目は「誘引する力」、つまり人を引き付ける力です。笑っている人たちがいると、人はその輪の中に入りたくなります。だから楽しい行事をやっていると、どんどん人が集まってくるのです。

 二つ目は「親和する力」です。笑い合うといつの間にか親しくなります。初対面の方と話す時、最初に笑いが出ると後の会話がしやすくなりますよね。家族みんなで娯楽番組を見て笑う、そういう時間を意識的に作るといいです。

 三つ目は「浄化する力」です。昔から「笑いは百薬の長」といいまして、病気が良くなったり、病気を防いだり、体内の毒素を浄化させる力があります。

 そして四つ目は「解放する力」。心を解放してゆとりを生み出してくれます。どうにもならない状態に追い込まれた時、それを笑い飛ばすことで人間は解き放たれるんです。

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 第二次世界大戦中、ヨーロッパを制圧したヒトラーがユダヤ人狩りを始めました。ユダヤ人はナチスに捕まらないよう地下や屋根裏部屋に隠れてひっそりと暮らしていました。そんな中、ユダヤ人は集まってジョークや小咄(こばなし)を作って笑い合っていたそうです。こんな小咄があります。

 ヒトラーは多くのユダヤ人を殺したので、「いつか自分はユダヤ人から殺されるのではないか」と怯(おび)えていました。そこで占い師を呼び、「俺はいつ死ぬんだ?」と聞きました。

 占い師は「あなたはユダヤ人のお祭りの日に死にます」と答えました。

 それを聞いたヒトラーはユダヤ人のお祭りを全て止めさせました。

 「これでもう殺されずに済むな」とヒトラーは占い師に言いました。

 すると占い師はこう言いました。

 「そんなことをしても無駄ですよ。あなたの死んだ日がユダヤ人のお祭りの日になるんですから」

 こんな小咄を作ってユダヤ人たちはクスッと笑っていたんですね。笑うことできっと「明日も頑張ろう」という勇気が湧いたのだと思います。笑いにはそういう力があるんです。

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 赤ん坊の笑顔ってとても可愛いですよね。見ている大人まで笑顔になってしまいます。このような魅力的な笑顔を赤ん坊は生まれながらにして持っているんです。

 生後間もない人間の赤ん坊は、他の動物のように歩くこともできないし、物を食べる力もありません。その代わり人間の赤ん坊は何か困ったことがあると泣きます。お腹が空けば泣くし、オムツが濡れると泣くし、その度にお世話をしなければならないので、乳児期の子育ては疲れ果てます。

 そんな時に赤ん坊が機嫌よくニコッと笑ったりすると、一遍に疲れが吹き飛んでしまいますよね。「またお世話をしてあげよう」という気持ちになるんです。笑顔の力って本当にすごいと思います。

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 私は精神科の医者なので、よくうつ病の患者さんと向き合います。うつ病は心身がすり減った状態なので、心にも体にも症状が出ます。

 体の症状は、全身の倦怠感、疲労、不眠、めまい、肩こり。

 心の症状としては、今まで楽しんでいたものが楽しめなくなるとうつ病の始まりだといわれています。不安やイライラ、そして「どうせ自分なんて」と思って死にたくなってしまいます。

 これを防ぐのはまず休養です。それから、こうしたうつ病も含めて病気にならないために有効なものが「笑い」なんです。

 ある患者さんに落語を1時間聞いてもらい、血液を調べたら数値が改善していました。どうしてこんなに効くんだろうと思って、よくよく調べたらその落語家の名前が「林家きくぞう」さんだったそうです。

 皆さん、つらいことがあった日でも寝る前に「今日あった楽しいこと」を一つ思い出す習慣を身につけてください。物事を違った角度から見る練習が大切です。そして困った時でも鏡を見てニコッと笑ってみましょう。

 (宮崎市で開催された健康講演会より/2009年7月13日・27日号の記事に加筆してお届けしました)


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