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転載・過去・未来 2840号(2020/06/15)
その160 『恋の高校総体に出るために』~素敵な人が現れたら素敵な恋愛ができますか?

元県立高校校長/元国語教諭 段正一郎
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 今日の講演のタイトルは『恋の高校総体に出るために』です。

 なぜこんなタイトルにしたかというと、以前、うちの高校に産婦人科の先生がお見えになって性教育の講演をされたんです。

 性の専門ですから、端的に言うと「避妊具をつけなさい」というお話でした。それは妊娠を回避するためと、性感染症を予防するためという意味もあり、それはそれで必要な教育だと思います。

 しかし、教育者である我々からしてみると、そういう知識と同時に、人間の尊厳とか精神性も教えないといけないと思うんです。私は国語の教師なので文学を通してこの愛と性の問題にアプローチしていく、それなら私にもできそうな気がしたのです。

 高校総体に出場するために運動部の生徒は毎日必死に練習しています。では、「恋愛は練習しなくていいのか? 我々には先天的に恋愛をする能力が備わっているんだろうか?」と、ふと思ったんです。

 ここで私は高校生に投げ掛けたい。「恋の高校総体に出るためには何が必要なのか」と。このことを文学、神話、短歌、小説から考えてみたいんです。


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 恋愛についての高校生のアンケートがあって、「恋愛関係はどれくらい続くか」という設問に、「1年以内」という回答が一番多かったです。若い時の恋愛ってなぜ続かないのでしょうか。

 『愛するということ』は、エーリッヒ・フロムというドイツの有名な作家の作品です。これは「愛するということはどういうことか」ということを思索した大変興味深い本です。

 この中でフロムは、「愛とは対象ではなく能力によって成り立つ」と言っています。どういうことかと言うと、よく「どこかに素敵な人はいないかなぁ」とつぶやく人がいますよね。そういう時、「自分はどうなんだ」という部分が抜け落ちているわけです。

 フロムはこう言います。「素敵な人さえいたら素敵な恋愛ができると思うのは、美しい風景さえあれば美しい絵が描けると思うのと同じだ」と。

 いくら美しい風景があっても、それを描ける技術がなければ、美しい風景画は描けません。同じことが恋愛にも言えます。素敵な人と出会って、その人と素敵な恋愛を成立させるためには、それにふさわしい「恋愛する技術」が必要なのです。だから「愛とは対象ではない。能力によって成り立つ」というわけです。

 その能力はどうしたら習得できるのか。

 フロムはこう言っています。「愛は安らぎの場所ではなく、葛藤であり挑戦である」と。

 よく「先生、私たちラブラブなの」とのろける生徒がいます。私はそれを聞いて、「悪いけど続かないと思うよ」と言うんです。すると「何でそんなこと言うと! 絶対そんなことはない!」と反論してきます。

 だけどさっきのアンケートのようにほとんど1年くらいで終わりますね。

 というのは「なぜ恋愛するのか」という設問で、「2人きりで過ごしたい」というのが一番多かった。この「2人でいること」が目的になると、それが実現した瞬間、その愛はやがて終わります。

 愛が長続きする秘訣は2人が共通の目標に向かって歩んでいく中で、助け合い、励まし合いながら一緒に何かと闘い続けることです。だから「葛藤や挑戦がなければ愛は長続きしない」とフロムは言っているのです。
 
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 またフロムは「恋愛するには資格が必要である」とも言っています。その資格は「1人でも生きていけること」です。

 「1人だと淋しいから好きな人と一緒にいる」のではなくて、「1人でも生きていけるけど2人だともっと楽しいし、素敵なことをたくさん経験できるし、2人で力を合わせれば大きな目標だって達成できる」、こういう愛情で結ばれることが大事です。

 「あの人がいないと生きていけない」というのは愛ではなく依存なんですね。たとえば、宿題を忘れた時に、簡単に「宿題を見せてよ」なんて言える関係は、緊張感のない馴れ合いの関係です。むしろ好きな人には「『見せて!』と頼むなんて恥ずかしくてできない」、そういう気持ちが必要です。

 もっと言うなら、誰かを愛するならその人から「尊敬されたい」という気持ちを持つことです。

 尊敬される人間になるためにお互いが努力する、そういう2人にこそ恋愛は成立するのではないか、若干私自身の解釈も付け加えるとそういうことになるかと思います。

 どうすればそういう人間になれるのか。フロムはこう言っています。「1人でいる時間を作りなさい」と。毎日1時間でも2時間でも1人で思索する時間を持つことです。

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 さて、「恋の高校総体」に出場するためには、いろんな訓練が必要です。とにかく人間として自立することですね。

 私は国語の教師として、若い時には人を好きになり、その恋を成就させること以上に、切なく、つらい経験をすることも大事だと思っています。

 大人になると、「あの人は安定した職業だから」とか「私ももうこんな年齢だから」など、打算的に考えて恋愛することがあります。結婚を考えた時にはそういうことを考えざるを得ないんです。

 だけど何の打算も計算もなくできる高校生の恋愛は、片想いや失恋も含めて、生きていく力になります。真剣に恋をすると、人は必ず進歩するはずです。

 (宮崎県性教育研究会主催の講演会より/2008年4月21日・5月5日号の記事に加筆しました)


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