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転載・過去・未来 2842号(2020/07/06)
その162 たまゆらの音~川端文学が宮崎と出会った日

元宮交シティ社長/元宮崎産業経営大学教授 渡辺綱纜
 昭和39年11月16日に川端康成先生が宮崎県に初めてお越しになり、当時宮崎交通の企画宣伝課長をしていた私が18日間宮崎各地を案内させていただきました。

 その前日、NHK宮崎放送局の部長から電話があり、「明日、川端康成先生が来ますからよろしく」と言われました。

 驚いて事情を聞くと、経緯はこうでした。

 その年のNHKの朝の連続テレビ小説は林芙美子先生の『うず潮』でした。それがとても評判がよくて、「来年はこれ以上の作品を」ということで川端作品が扱われることになったのです。

 NHKのスタッフが川端先生のお宅を訪ねました。しかし先生は、「私の作品は使わないでくれ」と言われました。

 「何とか使わせてください」とお願いしたところ、先生は、「これから新しく書けと言うなら話は別だ」とおっしゃられました。

 そして先生は唐突に、「『たまゆら』という題ではどうでしょう」と言われたのです。それはもうあらかじめ準備していたかのような言い方でした。これにまたスタッフの方はびっくりされました。

 実は川端作品の中に『たまゆら』という短編小説があるのです。先生は「たまゆら」という言葉が大好きで、その題名を使いたいばかりに小説を書いたのだそうです。そしていつか『たまゆら』という題の長編小説を書きたいお気持ちを持っておられたというのです。

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 「たまゆら」は漢字で書くと「玉響」です。「玉響き、かすか、しばし」という意味で、万葉集にも出てくる言葉です。

 「玉響 昨夕 見物(たまゆらに きのうのゆうべ みしものを)」

 「ほんのしばし、きのうの夕方見たあの人のことが、もう今日は忘れられない」という、一目ぼれの歌の最初に出てきます。

 私も、川端先生が宮崎に来られた時、お聞きしました。昔の神様が「まがたま」を首から下げていますよね。これをいくつか持って耳元でこすると、本当にかすかな音ですが、とても安らぐような、癒されるような、いい音がするそうなのです。

 それは「玉が揺れるような音」ということで「たまゆら」というそうです。

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 それでNHKの方が、「先生、今からお書きになるなら取材か何かされますか?」と聞くと、「ぜひ取材したい。どこか地方に行きたい」と言われたそうです。

 それでその担当者は、「川端先生というと『雪国』のイメージだ」と考えて、「東北とか北海道ではどうですか?」と言うと、「私は暖かいところがいい」とおっしゃいました。

 「これからの季節でも暖かいというと九州ですね。九州の宮崎でどうですか。最近新婚旅行で話題です」とおっしゃって、川端先生が宮崎に来られることになったのです。

 そうして書き上げられた『たまゆら』は、昭和40年春から1年間、NHKの朝の連続テレビ小説として放映されました。

 「すみ子が飛行機に乗るのは初めてであった。それが新婚旅行であった」。こういう文章で始まります。『雪国』の「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」と少し感じが似ていますよね。

 未完の小説なのですが、宮崎を舞台にしたこの『たまゆら』は、川端先生の最後の小説になりました。

 (2005年4月25日号、6月20日号より)
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