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転載・過去・未来 2847号(2020/08/10)
その167 心の表現~短歌に表れる切ない気持ち

宮崎県立看護大学客員教授/歌人 伊藤一彦
 老人施設で講演をしたとき、「私も短歌を作りたい」とおっしゃる女性がおられて、その施設に短歌指導に行くようになりました。

 最初は2人でしたが、だんだん参加者が増え、施設職員や地域の方も加わり、ほかの施設からも呼ばれるようになりました。

 そのうち、「高齢者の短歌大会をやりましょう」ということになり、平成7年から「心豊かに歌う全国ふれあい短歌大会」を開催し、平成14年からは全国大会として実施しています。

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 高齢者の方、特に介護を受けている方というのは、「迷惑をかけて申し訳ない」という思いから、言いたいことが言えずに遠慮したり、我慢したりしている人がとても多いんです。

 徳島県の80歳の女性の歌です。

 「長生きを願う日もあり願わざる今宵もありてわれは老いたり」

 誰でも長生きを願います。だけど「こんなに迷惑かけるんじゃ申し訳ない」という気持ちを歌っているわけです。

 短歌大会で最優秀賞を受賞した東京都106歳の女性の歌です。

 「いかなことこの寂しさに耐えられず看護師さんの身に入りたし」

 「いかなこと」というのは、「どうしたもんだろうか。おかしなことだな」という意味です。

 「とても寂しくて耐えられないので、そばにいる看護師さんの体の中に入ってしまいたい」と歌っているわけです。でも実際そんなことはできませんので、「できないことを考えているなんておかしな私だな」というわけです。

 短歌大会には全国から何千もの短歌が集まります。その中から優秀賞を選び、県の社会福祉協議会の予算で受賞者を宮崎にお呼びして授賞式に参加してもらっています。

 でもこの方は106歳ですから本人は来られず、代わりに彼女を介護している特別養護老人ホームの職員の方がお見えになりました。その職員さんがこんな話をしてくださいました。

 実はこの歌は106歳の彼女が書き、くずかごに捨てられていたものだそうです。それをその方がたまたま見つけ、「これは何ですか?」と聞くと、彼女は「短歌を作ったけど駄作だから捨てました」とおっしゃったそうです。

 くずかごから拾って読んで「これは素晴らしい」と思ったその方は、私どもの短歌大会に応募してくださったのです。私はそんな事情など知らず、この歌を最優秀賞にしたんですね。

 「とても寂しくて耐えられない」なんて、なかなか話し言葉では言えません。でも歌だとそれが言えるのです。しかもユーモアが漂っているところも素晴らしい。

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 宮崎県で最高齢だった栗原ヒサさんという女性がいらっしゃいました。この方は毎年短歌を応募されていたんですが、2年前に110歳で亡くなられました。そのときは、確か日本で12番目か13番目の高齢者でした。

 その栗原さんの109歳のときの歌がこれです。

 「お互いに年をとりて耳遠し話ちぐはぐ笑顔で笑う」

 お互いに耳が遠くなって言葉もあんまり通じない。話をしてもちぐはぐになってしまうので、笑うしかないという歌です。

 こういう歌を読んでいると、高齢者の方々は言いたい思いをたくさん持っているし、その思いを表現したいんだなということがよく分かってきます。

 心を表現することがいかに大切か、ということです。

 (2009年1月12日号、2月23日号、4月6日号より)
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