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転載・過去・未来 2854号(2020/10/05)
その173 神様のいたずら~自閉症の息子とうつの妻を抱えて

㈱東レ経営研究所 社長(当時) 佐々木常夫
 2006年に『ビッグツリー』という本を出しました。自閉症の息子と、うつ病で三度の自殺を図った妻を抱え、仕事と家庭を両立しながら奮闘する内容をまとめたものです。

 当時、唯一の救いは小学5年生の長女が母親譲りの料理大好き人間だったことです。

 自分で料理本を買ってきて次々に料理をマスターし、半年も経たないうちにその辺りの主婦顔負けの料理を作る腕前になりました。

 娘は障がいのある兄の面倒を見たり、私を手助けしてくれました。私は彼女のことを「戦友」と呼ぶようになりました。でも、やがて彼女にも限界が来ました。

 うつ病の妻はすぐに「死にたい」という言葉を何度も言いますし、夜は寝ない。だから家族が疲れちゃったのです。娘は、「もうこの家イヤだ」と言って出て行ってしまいました。

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 私はそのとき㈱東レの経営企画室長でした。直接の上司は社長で、それ以外にも会長、副社長など8人くらいの指示を受けていました。例会でも山のように資料が出てくる。そういうのがあるので6時には帰宅できませんでした。

 でも私は楽天的な性格なので、「神さまは私にちょっといたずらをされたようだ。そのうちきっと飽きるだろう」と思っていました。まさかその「いたずら」が足かけ7年も続くとは思いませんでした。

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 家を出て行った娘は、次男のアパートで暮らしていました。

 ある日、次男が、「お父さん、大変だ。ミーちゃん(娘さんのこと)が『死ぬ』と言って飛び出しちゃった」と言うんです。

 どこに行ったか分からないので埼玉の警察に届けました。

 アパートで3時間半ぐらい待っていたら警察から電話がありました。「お嬢さんが崖の上から飛び降りました」と。

 でも、たまたま落ちたところが砂地だったので3週間のケガで済みました。もし岩だったら死んでいました。

 夜中の12時頃、病院に行くと、娘は寝ていました。次の日は早く会社に行く用事があったので、手紙を書き、朝の6時に枕元にその手紙を置いて東京へ戻りました。

 そして、私はそのことをすっかり忘れていました。

 私が本を書くとき、娘がその手紙を持ってきて、「この手紙も使ったら?」と言うので見ると、すっかりボロボロになっていました。2年くらい手帳に挟んで持ち歩いていたそうです。

 私は10年ぶりに自分が書いた手紙を読みました。その一部です。

 親愛なる美穂子。…今回のことはお父さんの人生の中で最も衝撃的な事件でした。

 110番してから埼玉県警から連絡が入るまでの数時間は不安と恐怖の塊でした。何度も何度もあなたが生きていて欲しいと神様に祈り続けました。

 あなたの悩みがどんなに深かろうと、自分の命を絶つことは許されません。

 あなたはお父さんにどれほど愛されている人間かわかっていません。あなたほどお父さんが愛した人はいません。

 あなたの性格は大ざっぱなようできめ細かく、大胆なようで繊細な、そんなあなたの苦しさはお父さんが一番よく理解しています。…


 のちに娘は、「自分はなんてつまらないことで悩んでいたんだろう。自分にはすぐ側に大切な人がいることがわかった」と言っていました。今は元気にエステの仕事をやっています。

(2010年4月12日号より)

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