転載・過去・未来 2862号(2020/12/07)
その180 笑いと健康~「いい患者」になりましょう
放送作家(故人) 永六輔
先日、熊本の菊池養生園の竹熊宜孝(たけくま・よしたか)園長(当時)と対談しました。この園には広い農場があって、畑と田んぼと牧舎があって、牛や馬や豚がいて、そこで患者さんたちが働いていました。
病室はありません。点滴も注射もしないし、薬も出しません。
ただ働いて、その辺の草をむしってもらって病気を治すという、農業と医学を組み合わせた『赤ひげ先生』みたいなことをやっていました。
竹熊先生は、「いい医者を探すのは大変だけど、いい患者を探すのはもっと大変。永さん、いい患者になってね」と言いました。
いい患者がいて、いい医者がいて、いい医療施設がある、これが幸せな医療だと思いました。そこで「いい患者」の六項目を考えました。
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①「いい患者は、自分で病名を決めない」
いろんな情報を調べると「自分はこの病気だろうな」ってだいたい分かりますよね。でも、分かってても医者より先に言っちゃダメ。
まず医者に言わせて、「やっと分かりました」と言って感謝する。これが「いい患者」です(笑)。
②「いい患者は、待合室のうわさ話に参加しない」
外来で、いろんなうわさ話をしてますよね。「あの看護師さん、〇〇先生とデキてるみたいよ」とか。そんなうわさ話は聞こえないふりをするといいです(笑)。
③「いい患者は、同じ病気のドクターを探す」
肝臓が悪い人は肝臓の悪い医者を、酒飲みの人は酒飲みの医者を探すといいんですね。
酒を飲まない医者の病院に行くから「酒はダメ」と言われるんです。酒飲みの医者だったら、だいたいは「少しならいい」って言ってくれますからね(笑)。
趣味も同じです。④「いい患者は、趣味の同じ医者を探す」
⑤「いい患者は、命の終わりのことを考えない」
「私、いつまで生きていられるのかしら?」なんて考えちゃダメ。「自分だけは死なない」くらいに思うのが健康の秘訣です(笑)。
⑥「いい患者は、遠くの医者よりも近所の獣医へ行く」
脚本家の倉本聰のところで、若い連中のたきぎ割りを手伝っていたら腰を痛めてしまいました。
すると、倉本が言うんです。「永さん、医者がいる町まで駅三つ。獣医だったらすぐ裏にいる。どうする?」って。だから「獣医でいい」と言って診てもらって、牛用の大きなシップを貼ってもらいました(笑)。でも、ほんとは獣医に診てもらっちゃいけないんですよ。
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今のはだいたい冗談ですが、冗談を言うのは笑うことが健康にとってとても大事だからです。
笑うと免疫が強くなります。だから笑うチャンスを大事にしましょうね。
笑いのレベルは人によって違います。どうやら「半分の人だけ笑って、後の半分は『何がおかしいのか分からない』くらいが話としては一番いいみたいです。だから僕も「半分くらいの人たちが笑う話」をするんです(笑)。
僕はラジオ番組を長年やっていて、相方はアナウンサーの遠藤泰子さんでした。
ある時、戦争の話をしました。泰子さんが「当時は大変だったらしいですね」と言うんです。だから僕はずっと「泰子さんは戦後生まれなんだな」と思っていました。
別の収録の日に、今度はへその緒の話をしたんです。すると泰子さんが、「私のへその緒は空襲で焼けました」と言ってました(笑)。(※遠藤さんは1943年生まれ)
これもたぶん笑うのは半分くらいでしょうね(笑)。
(2008年12月22日号より)
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2862号