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転載・過去・未来 2863号(2020/12/14)
その181 宇宙探査機ボイジャー~「彼は私たちの素敵な息子だった」

鈴鹿短期大学名誉学長/元NASA客員研究官 佐治晴夫
 アメリカのNASA(アメリカ航空宇宙局)で、地球外の生きものを見つけるプロジェクトに参加したことがあります。

 「どうやって宇宙人と話をするか」という議論になりました。

 「言葉は違っても考え方の論理は共通だろう」「目よりも耳の感覚が発達するのも共通だろう」との結論が出て、音と数学の組み合わせで交信を試みることになりました。

 1977年9月5日、NASAは無人の惑星探査機ボイジャー1号を打ち上げました。

 僕たちNASAのスタッフは彼のことを「ボイジャー君」と呼ぶようになりました。

 彼は、僕たちが行けないところまで行って映像を撮り、僕たちに見せてくれました。いわば僕たちの感覚器官の延長線上の存在です。ボイジャーを機械だと思う人は誰もいませんでした。

 だから打ち上げのとき、僕たちは「お別れのミサ」までやったんですね。

 ボイジャーはいろんな星の姿を見せながら、地球から遠ざかっていきました。

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 1989年に最後のミッションが終わり、ボイジャー班は翌年解散することになりました。

 その時、1人の女性の科学者が言いました。

 「今まで私はあの子に『可能な限り星の近くに行って細かいところを見ておいで』と言い続け、あの子はそれを忠実に実行してくれた。すべての役割を終えて、今、永遠に宇宙への一人旅に出てしまったボイジャー君。最後に私のほうを振り返って! 私はあなたのお母さんだから…」

 彼女はボイジャーに向かって自分のことを「お母さん」と言い、「最後にお母さんのほうを振り返って!」と泣きながら呼び掛けたのです。

 このときボイジャー君は、地球から65億キロメートル離れたところにいました。

 彼女の「振り返って!」の電波は、彼に届くのに4時間15分かかります。そして彼から返事が返ってくるまでにまた4時間15分かかります。

 1秒間に地球を7周半する光の速さで往復8時間半かかるほど遠いところにボイジャー君はいたのです。

 1990年の2月15日、ボイジャーは彼女の呼び掛けに応え、振り向きました。そしてそこから地球の写真を撮り、われわれに送ってくれました。

 彼女はそれを「太陽系の家族写真」と表現しました。

 そして彼は太陽系を出て、今も一人で宇宙空間を飛び続けています。そのことを考えると、私は胸に迫るものがあります。

 彼が撮り、送ってくれた写真には、太陽と金星、そして地球が美しく写っていました。

 それを見て彼女は、「私が『振り返って』と言ったら、あの子はちゃんと振り返ってくれた。きっと太陽がまぶしかったことでしょうね」と言って、また泣きました。

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 当時の研究所長は写真についてこうコメントしました。

 「この写真は、確かに太陽系の中の第3番目の惑星が私たちの住む地球であり、そしてそこにしか命がないということを認識するためにボイジャー君に撮ってもらったのです」

 この言葉をどうか皆さん、よく心に留めておいてください。

(2008年2月25日号より)


 現在、ボイジャー1号は太陽から約224億キロメートル離れたところ(2020年6月現在)を飛行中で、地球から最も遠くにある人工物体といわれています。
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