予防でつなぐ希望のバトン 2659号(2016/08/08)
その7(終) がん闘病は「登病」でゆこう!
医療法人松風海 内藤病院副院長 林田繁
がんに立ち向かっていく勇気ある人を「サバイバー」ということがあります。カナダのスポーツ青年テリー・フォックスは18歳のとき骨肉腫で右足を切断せざるを得ませんでした。東京オリンピック・パラリンピック招致のプレゼンをした、陸上の佐藤真海(まみ)選手も同じ手術を受けています。
テリーは21歳の時、がん研究基金を集めようと、義足でのカナダ横断マラソンを始めました。
国中が彼の姿に心を打たれ応援しましたが、途中でがんが再発し、1981年、22歳の若さで亡くなってしまいました。この希望のマラソンは「テリー・フォックス ラン」として彼の意志を受け継ぎ、現在までに全世界で数百億円が集められています。
テリーは自分のためではなく、「がん」という病気全体のことを考えて走ったのですね。
彼の意志を受けてアメリカではジェフ・キースという若者が同じく骨肉腫のために義足となり、5000㌔のアメリカ横断を成し遂げました。今も元気に「がんサバイバー」のカリスマとして活躍しています。
2人とも「自分は死ぬかもしれないけれど、自分にも何かできることがないだろうか」と考え、行動に移しました。がん予防も、決意の問題なのではないかと思います。
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「闘病」と聞くと、なんだかきついイメージがないでしょうか。「がんは闘う病気」と考えられることが多いです。
ところが、実際はがん細胞と直接闘うわけではないのです。抗がん剤の苦しさを耐えたり理解されないつらさを我慢したりすることが「闘病」であるわけですね。
「闘病」は、まるで崖の端に立って下を見下ろしたときのような、ぞっとした状況に置かれている感じなのです。
しかし、その考え方を少し転換してみましょう。同じ崖でも、その崖を下から見上げてみるのです。がんの診断をうけたら「私はこの崖を登る」と決意することが大事です。
だから、「闘」うのではなくて「登」るということで、「登病」だと考えてみませんか?
もちろん登るときにはいろんな問題や困難があることでしょう。それらに対して一つひとつ手がかりや足がかりを見つけて少しずつ登れば必ず崖のどこかへ辿り着きます。
病気を持って生きていくことは、決して忍耐することでも我慢することでもありません。
大事なのは自分のできることを探して一歩一歩進んでいくことです。自分で手がかりを見つけたり、あるいはうまくいくルートを教えてもらって、その後についていったり…。
そうして登っているとき、万が一足を滑らせても下にショックを吸収する安全網が張られていれば大丈夫ですね。
そんな安心感のある人間関係をつくれたらと思いながら、「キャンサーヘルプネット」はこれからも活動を続けていきます。
(キャンサーヘルプネット宮崎が主催した講演会より/終わり)