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社説 2589号(2015/02/16)
批判せずに「残念」と思えばいい

魂の編集長 水谷謹人
 作家の美崎栄一郎さんと出会ったのは2年前だった。

 美崎さんの本は実に多彩だ。文房具の専門書もあれば、手帳術の本もある。ほとんどがビジネス書だ。しかし、なぜか「子ども心」がくすぐられる。

 思わず手に取ってしまったのが『仕事はできるのに机がぐちゃぐちゃで困っているきみへ』だった。

 『仕事ができる人はなぜ「あそび」を大切にするのか』や『文具大賞~機能性もデザイン性も高い最高の最新文具』にもワクワクさせられた。

 『Facebookバカ~友達を365日たのしませる男の活用術』や『超iPadバカ~2000種類のアプリをためした男のすごい活用術』など、こういう本を書く人はきっと心が永遠の少年に違いない。 

 美崎さんに教えてもらった素敵な日本語がある。それは「残念」という言葉だ。

 買い物に行った店で店員の態度が横柄だったり、サービスの悪いレストランで食事をしたりすると悪態をつきたくなる。面と向かって言わなくても誰かにその店の悪口を言いたくなるものだ。だが、それは決して品のいい行動ではない。

 そういうときは、「ひどい店」「サービスの悪い店」などと言わないで、「残念な店」「残念なサービス」と思えばいい。「あいつはイヤな奴」と批判するのではなく、「残念な人」と思ったほうが感情的にならなくて済む。

 そう、「残念」と思うことで、心の中にある怒りや悔しさ、相手を許せない気持ちが優しくなり、穏やかになる。

 「残念」には「あなたへの好意はまだ私の中に残っています」という気持ちが込められているのだ。

 美崎さんは、日常の中で残念に思ったことを『残念な努力』という著書の中で吐露している。

 たとえば、「残念な年賀状」の話があった。何年も会っていない人でも、年に一回、1枚の便りで身近に感じさせてくれるのが年賀状だ。にもかかわらず、「謹賀新年」と印刷屋さんが用意した定型文章だけの年賀状が届くと残念な気持ちになる。

 「印刷に金と時間をかけてこんな年賀状を何千枚送っても、喜ぶのは郵便局だけで、受け取った人には何にも伝わらない」

 「印刷でもいいから『旧年は入院しました』とか『今年は山登りに挑戦します』とか、何か情報を載せるべき」と美崎さん。

 「残念な努力」とは、本人は一生懸命やっているのに、それが無駄なエネルギーであったり、客のためになっていないサービスだったりする。そのことに気が付いていないから、ずっとやり続けてしまう。だから「残念な努力」になる。

 そう言えば、飛行機に乗るとき、いつも残念に思うサービスがある。混雑を避けるために後方座席の客を先に搭乗させ、その後に前方座席の客を案内する。

 しかし、結局機内で立ち往生する。前方だろうが、後方だろうが、窓側の客が後から来たら、先に座った通路側の人はいちいち席を立たなければならない。これをあちこちでやっているから機内はスムーズに流れない。

 格安航空会社(LCC)の「ピーチ」がやっているように、まず窓側の客を先に、その後に通路側の客を搭乗させると、機内の混雑はほぼ解消される。LCCのやり方を真似しないのは、やはり老舗のプライドだろうか。

 著書『残念な努力』にはこんな残念な人たちも紹介されていた。

 お願い事があるときだけ連絡してくる人、好きな人に告白せず悶々とした日々を送っている人、常連の店を持っていないために外食するときはいつも適当に見つけたお店やチェーン店に入る人、電車や車をただ移動するためだけに使っている人、すごい人と出会ったとき、「またお会いしたいです」と言いながら、次の約束をしない人等々。

 自分の胸に手を当ててみたら、思い当たる節がたくさんあった。

 残念な人、残念な店、残念なサービスには学ぶべきことが大いにある。
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